『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
40になり一念発起して英語教育を大学院で勉強を始めました。英語論文の書き方(校正、ライティング力)について、年齢的に限界を感じます。アカデミックな文章は若いうちから書かないとなかなか書けないものなのでしょうか。
今の苦しみは飛躍の前段階です
[読書猿の回答]
アカデミックな文章は若いうちから書いてもなかなか書けません。
本当は、アカデミックでない文章だってなかなか書けないものなのですが、アカデミックな文章ほど苦手意識を感じる機会は多くありません。
というのも、アカデミックな文章ほど、他人に容赦なくボコボコにされる(欠点を指摘される、めちゃくちゃに直される)機会がある文章ジャンルはあまりないからです。
この容赦ない批判や手直しは、いろんなレベルと場面で繰り返されるピア・レビュー(同業者による相互批判)が知的営為の品質を担保するという学術研究の本質から来たものです。学術雑誌に投稿された論文が査読されるのは、ピア・レビューのほんの一例に過ぎません。
年齢を唯一考慮すべき側面があるとしたら、それは質問様がすでに長年英文を書いてこられた経験をお持ちである部分でしょう。
文章を書くことは、「手癖」とも言うべき、意識することなく遂行できる無数のスキルによって成り立っています。新たな書き方を学ぶことは、そうした「手癖」の体系を更新すること、より強く言えば、一部(時にはかなりの部分)を壊して再構築することです。若い方より、より長く書いてこられたあなたは、より多くの部分を壊して再構築する必要があるのかもしれません。それにはより長く強い苦しみを伴うと思います。
希望のようなものを申し上げるなら、その苦しみはあなたが学んでいるから、一歩ずつ先に進んでいるから、感じるものです。
また無意識にできていたことを意識的に作り直すことは、確実にその技術を無自覚では到達できなかった高みへと押し上げます。