捏造(ねつぞう)された怒りは効果の高い政治的武器かもしれないが、それはいとも簡単に制御不能に陥る。異なる視点が存在しない環境で、強力なソーシャルメディアによってあおられればなおさらだ。スウェーデンのHMをはじめとする国際的なファッションブランドが世界最大の消費者市場である中国で直面しているのは、まさにそうした状況だ。発端となったのは、新疆ウイグル自治区の綿花を使用しないという決定だった。中国政府はチュルク語を話す少数民族ウイグル族の強制労働や大規模な抑留など重大な人権侵害を巡り非難されている。HMとその小売店舗は通販サイト「淘宝網(タオバオ)」のような電子商取引プラットフォームからほぼ削除された。そればかりか、「百度地図(バイドゥマップ)」などの地図アプリや配車サービスの滴滴出行からも締め出された。刻々と変化する中国の国家主義的なレッドラインに踏み込み、政府の標的にされた外国企業のリストは長い。米プロバスケットボール協会(NBA)、韓国小売りブランドのロッテ、米宅配・航空貨物大手フェデックス、米ホテルチェーン大手マリオットなどもその例だ。だが、HMを真っ向から狙った批判は異例であり、中国で展開する欧米の消費者ブランドにとって深く憂慮すべき先触れとなる。