2位:恐るべき細部へのこだわり

――吉岡さんとお仕事をご一緒して驚いたのが、恐るべき「細部」へのこだわりです。『独学大全』でも、第4部だけ紙が変わっていたり、巻末の「困りごと索引」がジャバラで別紙になっていたり。さらに出来上がった本からは見えないところで言うと、全ての画像について、吉岡さんがギリギリまでデータの調整をしてくださったり。カッコ()の種類にこだわったり。なぜ、ここまでやるんでしょうか?

吉岡 どんなに細かい部分でも、「丁寧に作られた本」か「そうでないか」は読んでいる人が必ず感じてしまうと思います。細かいこだわりを感じれば感じるほど、それはその他大勢のための本ではなく、「自分(読者)のための特別な本」になる。

 デザインするときは、一瞬の注意だけを引いて読み捨てられる本ではなく、買った後に何度も開くような「特別な本」になってほしいなと思っています。『独学大全』は特にそのことに気を配りました。いつも読む人が近くに置いて人生の必要なときに取り出してもらう本なので。

3000円超で20万部! 高額でもやたら売れる異例ベストセラーに隠された「デザインの秘密」ベスト5「困りごと索引」。読者が望んだ技法に最速でたどり着けるよう、ジャバラにして巻末につけた。

――読者はそんな細かいところに気づかないのでは、とも思うんですが……。

吉岡 もちろん、読者の方が「ここが細かいこだわりのポイントですね」と気づいたり、言語化するわけではありません。そんな必要もないと思います。さっき言った「生物的反応」をしてくれればいい。

 例えば今日手土産でお持ちいただいた、お菓子の包装紙。「FRANCAIS ミルフィーユ」と書かれた文字の部分が、わざわざシールで貼ってありますよね?

――えっ、本当ですね……全く気がつきませんでした。でも「なんかいいな、おしゃれだな」と思って購入しました。

吉岡 この部分が印刷の場合と、シールが貼ってある場合でお菓子を手に取る人への魅力は変わってくると思うんです。僕が言った「丁寧に作られた本」とはそういうことですね。

3000円超で20万部! 高額でもやたら売れる異例ベストセラーに隠された「デザインの秘密」ベスト5当日、担当者が手土産で持っていったお菓子の包装紙。

1位:本文の色はが実は黒ではなく「こげ茶」です

――最後にとっておきの秘密を。多くの人に驚かれるのですが、この本の本文の色、「黒」ではなく「こげ茶色」なんですよね。なぜこげ茶なのか? 改めて教えてください。

吉岡 ふふふっ。これが1位なんですねっ。意外でしたっ!

 こげ茶色にした理由は2つあります。

 1つ目は、「独学」という他人が立ち入れない独自の洞窟に入り込むような奥行きのある雰囲気を醸し出したいというとろ。

 2つ目は、この本には「必要なときに“引いて”使う本」「55の技法を紹介している」という特徴があります。そこで、ツメを55個全てにつけて、読書が知りたい技法にすぐにたどり着けるようにしています。あわせて、技法のタイトル部分は、文字も大きく、ベタ塗りで目立つようにしました。ただ、一方で本の雰囲気を「軽やかに」することを考えると、「ちょっと黒のベタ塗りは強すぎるな……」という懸念もあったんです。

 この2つをまとめて解決してくれたのが本文のこげ茶色だったんです。こげ茶にすることで、読みやすさは保ったまま、軽やかさを出すことに成功したと思います。こんな風にデザインの工夫で、著者の方の伝えたいことを表現できたり、問題解決ができたときは、本当にうれしいですね。

3000円超で20万部! 高額でもやたら売れる異例ベストセラーに隠された「デザインの秘密」ベスト5写真のページなどでは「こげ茶」の質感がより生きてくる。紙の本ならではの工夫。
吉岡秀典(よしおか・ひでのり)
デザイナー/セプテンバーカウボーイ代表
1976年静岡県生まれ。美術系の専門学校を卒業後、広告系の事務所に勤務。自由度が少ない仕事にどうしても納得できず、もともと夢だった漫画家を目指して実家に戻る。25歳のとき、たまたま雑誌で見た祖父江慎さんの優しそうな姿に感銘を受け、コズフィッシュの門をたたく。その後、2011年に独立し、現職。手掛けた書籍は星海社新書の装丁デザイン、『経営戦略全史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)『ビジネスモデル 2.0図鑑』(KADOKAWA)など。