8.5兆円とされる消費者向けEC市場において、とりわけ高い比率で伸びているのが衣類やアクセサリーなどのファッションアイテムだ。経産省の資料によれば、対前年比で20パーセント以上の伸びを示していて、今後も続伸する市場であることは間違いない。
その一方、乱立傾向にあるファッション通販サイトで、膨大な商品の中から自分好みのアイテムを選ぶのは至難の技ともいえる。疲れ果てた末に、「結局、近所のリアル店舗で購入した」という向きも多いのではないだろうか。
そうした状況で、新たな販売手法として期待されているのが「ソーシャルコマース」だ。SNSで繋がっている友人とお気に入りのアイテムをシェアしたり、薦めあうことで購買を促進させる仕組みで、ここでは“信頼できる友人”がアイテムを選別するフィルターの役割を果たしてくれる。だが、日本ではいまひとつ盛り上がりに欠けているのが現状である。
「センスでつながり、モノと出会う」と銘打たれた「Stylink.」は、センスの近い人同士をマッチングさせて、ECサイトへと誘導するソーシャルショッピングアプリ。従来のソーシャルコマースが既存の友人関係に軸足を置いていたのに対して、Stylink.では、自分と同じセンスを持った人との新しい出会いを支援する。
「現行のSNSでソーシャルコマースがうまくいっていない理由は、リアルな友達やファッション以外の趣味でつながっている友達などが、必ずしも同じセンスを持っているとは限らないからです。センスが違えば、商品をお薦めされてもピンと来ないので購入までには至りません。そこで自分と本当にセンスの近い人を見つけられるスキームをつくり、そこに商品を流通させれば新たな市場を創造できると考えました」(Stylink.を運営するF.F.B.株式会社 代表取締役 遠藤健一郎氏)
Stylink.の特徴は「スタイルサーチ」という独自開発のユーザーマッチング機能にある。東京や海外のファッショントレンド、注目アイテムを紹介するコンテンツが準備されており、ユーザーは二者択一で提示されるそれらのアイテムを順にタップしていくだけでよい。これでアプリがユーザーのセンスを読み取り、自分とセンスの近いユーザーを薦めてくれるようになっている。
また、友人にアイテムを紹介する際に、SNSではお馴染みの“シェア”という形を取らない点もユニークだ。ユーザーは、気になったアイテムをマイページにクリップして「欲しいものリスト」を作成するだけでよい。その過程で、クリップした商品を欲しいと思うであろう友人をアプリが自動判別して、「あなたからのオススメ」として知らせる機能が備わっている。つまり、お気に入りアイテムを自分のためにクリップした時点で、友人へのシェアが完了するというわけだ。
Stylink.のこだわりは「最短距離で商品を見つけられること」(遠藤氏)にある。ソーシャルコマースを謳う多くのサイトでは、アイテム情報以外にも、日常のつぶやきや日記などのアクティビティがタイムラインに流れてくる場合が多い。そこから、自分好みの商品だけをピックアップするのは面倒なものだし、ましてや自分好みでないアイテムが流れてくるのは煩わしいだけだ。
一方、“ユーザーファースト”に重点を置き、商品選びの際のストレスを限りなくゼロにすることを目的としているのが、Stylink.である。ソーシャルコマースを謳いながらも、“ショッピング”のしやすさを第一目標にして構築されているSNSは、案外と少ない。
現行のSNSが“人間関係”から出発しているのに対し、Stylink.は“商品”で人を結びつける。ベクトルの方向が逆であるが、eコマースの視点から見れば、どちらが購買へとつながりやすいかは一目瞭然だろう。今後のソーシャルコマースの行方を占う意味でも、ウォッチしておきたいサービスだ。
(中島 駆/5時から作家塾(R))