金融サービスはやはり英国系が強い
世界の最新節税事情
「英領マン島に設立した会社経由で金融商品を買って、資産運用しています。信託をかませているのでばれないと思います」
ある中小企業の社長はこう話す。マン島といえば、英国王室御用達とされるタックスヘイブン(租税回避地)として有名な島だ。こうしたタックスヘイブンは他にも、ケイマン諸島やヴァージン諸島、スイス、シンガポール、香港など世界各国にあり、10年に国際通貨基金(IMF)が発表したところによれば、南太平洋にある大小のタックスヘイブンだけで、約18兆ドル(約1800兆円)もの巨額の資産が集まっていたという。
もっとも、よく知られるように、16年初頭にパナマの法律事務所が世界の有名人たちの取引データを流出させて世界を騒がせた「パナマ文書」以降、タックスヘイブンに対する風当たりがきつくなった。また、テロリストの資金源として、マネーロンダリングの温床であるとの非難も高まり、「秘密主義」で知られるタックスヘイブン諸国の優位性はなくなりつつある。
とはいえ、世界の金融センターとして長らく君臨してきた英国が実質的に支配する英領のタックスヘイブンは、「なんだかんだ言って、英国の植民地は法整備も含めて金融システムがしっかりしている」と複数のプライベートバンカーや税理士が言うように、世界の富裕層の金が集まっているのは間違いない。
実際、7月20日(火)公開予定の本特集#3『富裕層の定番節税法「海外法人設立」で人気の国は?理由とリスクを税理士が解説』で具体的な手口とリスクについて詳述するが、ヴァージン諸島は他国に比べて外国法人を設立しやすそうだ。英領のタックスヘイブンは他にもあるが、「ケイマン諸島やバミューダ諸島は、財務に関するレポートを義務付けるようになるなど面倒くさくなった」とあるプライベートバンカーは言う。対して、ヴァージン諸島への締め付けはまだ緩やかだといえそうだ。
また、こうしたオフショア系のタックスヘイブンには英国系と米国系があるが、「両国で対立している」と別のプライベートバンカーは言う。「ケイマンには英国系が多いが、米国からすると資金が英国系に流れるのは好ましくないので、何かと罰則を設けてくる」(同)という。だが、金融サービスという面では資産承継に関する歴史の長さから、英国系に軍配が上がるだろう。これは、欧州きっての金融立国であるスイスについても同様だ。
もっとも、こうしたタックスヘイブン諸国に対しては、世界の課税当局が目を光らせている。日本の国税当局も同様で、特に離島系のタックスヘイブンについては、「なぜその国に法人をつくらねばならないのか?ビジネスの実体はあるのか?」といった点を執拗に詰められることになる。
その点、やはり大陸系のタックスヘイブンの方がビジネスの実体を伴うことが多いため、優位性が高そうだ。故に、日本人富裕層にとって行き来がしやすいアジアのタックスヘイブンに根強い人気があるのも無理はない。
筆頭格はシンガポール
移住に最適なマレーシア
大陸系タックスヘイブンの筆頭格といえば、やはり金融立国のシンガポールだろう。シンガポールの最新事情は、7月23日(金)公開予定の本特集#9『富裕層プライベートバンク節税の呆れた実態、香港政変でシンガポールが高笑い?【富裕層地下座談会・シンガポール編】』において、シンガポール在住の金融関係者に、実情について赤裸々に語ってもらう。
次に、シンガポールと同様、人気の香港はどうか。各種報道にある通り政情不安が気になるところだが、「中国としても香港は世界の金の入り口。経済的なインパクトを与えたくない」と考えているようだと、アジアのプライベートバンカーは話す。
また、香港で富裕層に金融サービスを提供する独立系ファイナンシャルプランナーの宮脇健氏は、「香港の金融サービスは比較的健全です。香港からシンガポールに転出した人もいるようですが、そもそも香港は資金の出し入れが自由な地域です。香港に住んでいても金融資産はスイスやシンガポールに分散している人が多いので、影響はそれほどでもないでしょう」と話す。
この先、香港の治安も落ち着いてくるだろうが、海外移住を考えている富裕層ならば、様子見するのが無難だろう。そして移住という面で「物価が安くて住みやすい」といわれるのが、マレーシアだ。マレーシアの最新事情は、本日同時公開の本特集#1『富裕層の海外節税、離島系はもうヤバい!王道シンガポールの後釜は?関係者がぶちまけ【富裕層節税座談会(上)】』でマレーシア在住の日本人資産家に語ってもらっている。
最近では、暗号資産(仮想通貨)で保有する資産は、「国外財産調書(5000万円を超える国外財産を保有する個人に提出を義務付ける制度)」に記載しなくてもよいという情報が、富裕層の間で広まっている。むろん、国税庁も当然ながら把握しており、暗号資産もターゲットの一つとなっている。この点については、7月24日(土)公開予定の本特集#11『仮想通貨「億り人」vs国税局、4年でバブル2回の攻防戦の裏側を税理士が解説』を参考にしていただきたい。
いずれにせよ、うまく海外で資産運用し節税できたとしても、全世界所得課税方式を採用する日本の国税庁から逃れるのは、至難の業。「利益が確定した時点で見つかると思った方がいい」と複数の税理士は言う。相続税の節税にしてもしかりで、被相続人と相続人の双方が共に海外で10年間暮らすというハードルを越えなければならない。下表にある通り、富裕層に対する包囲網が狭まっており、日本および世界で節税するのは年々厳しくなることを念頭に置いておいてほしい。
Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Kaoru Kurata





