海外の節税#11Photo:PIXTA

4年で2回のバブルが訪れるほど浮き沈みが激しい暗号資産(仮想通貨)。その暗号資産で莫大な資産を築く暗号資産長者が続々と誕生したり、新たな取引形態が生まれたりしているが、課税当局はそのスピードに追い付いているとは言い難く、いたちごっこが繰り広げられている。特集『海外の節税 富裕層の相続』(全21回)の#11では、暗号資産に対する今後の税務調査の方向性を予測していこう。(税理士 柳澤賢仁)

暗号資産長者が続々と誕生も
税制改正が追い付かないのが実情

 ここ数年、「億り人(仮想通貨・暗号資産投資で1億円以上の資産をつくった人のこと)」という言葉が出てきたように、「ビットコイン長者」や「仮想通貨長者」「暗号資産長者」といった富裕層が増えている。

 例えばビットコイン(BTC)は2017年の初めには1BTC当たり10万円程度だったが、その年の終わりには一時200万円を超えた。その後、バブルが崩壊して19年には一時40万円程度にまで値下がりしたものの、20年にはバブルが再来、21年に入ると一時700万円を超えた。すさまじいまでのボラティリティーの大きさといえるが、それがビットコインの値動きだとしか言いようがない。

 他にも、国産初の暗号資産(資金決済法に定義されており、法改正で呼称が「仮想通貨」から「暗号資産」に変更)であるモナコインの価格も、17年初頭とその年のピークで比べると、なんと約230倍にもなっている。当時、100万円分のモナコインを買っていたら、2億3000万円になった計算である。

 このように、暗号資産の世界は新しい銘柄やプロダクトが出てくるスピードが極めて速く、バブル、バブル崩壊、バブル再来といったスピードも極めて速い世界なので、法改正や税制改正がなかなか追い付かない。税法の世界では消費税法がいち早く仮想通貨(当時)を取り入れたが(譲渡時は非課税)、所得税は依然として総合課税されることになっている(暗号資産の利益は原則として雑所得とされている)。

 つまり、日本の居住者でいると最大55%(所得税率45%、住民税率10%)の税率で課税されるということになる。株式と同様に申告分離課税の税率20%(所得税率15%、住民税率5%)にしてほしいという声も多いが、まだそうした税制改正は実現していない。

 しかし、その税制改正の遅さの裏返しとして、ビットコインをはじめとする暗号資産は、現状、国外転出時課税制度の対象資産となっていない点も見逃せない。

 そこで、国外に暗号資産を持ち出した際の事例を次ページ以降で見てみよう。加えて、新たなプロダクトが続々と誕生している暗号資産の世界の所得税の取り扱いとともに、数多くの暗号資産長者の税務アドバイスを行っている身として、今後想定される税務調査の方向性を考察していく。