米アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾス氏や米マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏など、ビリオネアの立て続けの離婚が話題になっている。野次馬の関心の多くは多額の資産の行方だ。日本の富裕層でも近年、離婚に伴う資産の目減りを見越した対策がひそかに流行中だ。結婚適齢期の富裕層男性の間では、「嫁ブロック」なる隠語まであるという。特集『海外の節税 富裕層の相続』(全21回)の#20では、高給会社員や医師なども参考にできる、「婚姻費用(コンピ)」対策編を紹介する。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
ストックを分ける「財産分与」に対し
フローを分けるのが「婚姻費用」
本特集の#10『富裕層で密かに流行「離婚対策術」、資産半減を防ぐ「夫婦財産契約」の作り方』では、富裕層ではやっている離婚時の「財産分与」対策を紹介したが、財産分与はいわば夫婦の資産(ストック)の分け方の問題だ。
これに対し、別居から離婚成立までに発生する収入(フロー)の分割も、離婚危機にある富裕層の頭を悩ませることが多い。それは、離婚紛争を扱う弁護士らの間で「コンピ地獄」と呼ばれている。
コンピとは「婚姻費用」の略語である「婚費」のこと。夫婦や未成年の子どもの生活費など、婚姻生活を維持するために必要な一切の費用のことだが、当然ながら夫婦には「生活保持義務」があり、離婚するまで配偶者にそれ相応の生活費を渡さなければならない。
とはいえ、夫婦円満なうちはいいが、離婚を前提とする別居中も離婚成立まで婚姻費用を渡す義務がある点がこの話のみそとなる。さらに言うと、不貞など別居(離婚)の理由をつくった側が子どもを連れて家を出ていった場合でも、その相手の収入の方が低ければ婚姻費用を渡さなければならないケースが多く、渡さなければ、もらう側は家庭裁判所に婚姻費用分担請求を申し立てることができる。
下表のように、お互いの年収や、子どもの人数とその年齢に応じた相場(算定表)を裁判所が示しているが、あくまで相場は相場だ。
「婚姻費用は、夫婦(と子ども)が同居していたときの生活水準を別居後も維持することが原則です。例えば、算定表を超えた金額を毎月渡していた場合、その金額が夫婦の合意だったという主張が認められることもあります。富裕層ならば、月100万円を超える例も珍しくありません」と、シニア・プライベートバンカー資格(富裕層向けの金融コンサルタント資格)を持つ、岩崎総合法律事務所代表の岩崎隼人弁護士は言う。
そして、婚姻費用を渡す側が有責配偶者(離婚事由をつくった側)ならば、有責配偶者側からの離婚請求は10年などの相当長期間にわたる別居等の事実がなければ認められないため、相手が早期の離婚を望まない限り、当面の間、婚姻費用は発生し続ける。また、そうでなくても、調停や裁判によって離婚成立まで長い年月がかかることも珍しくない。
月100万円を数年にわたり支払い続ける……。そんな富裕層が離婚時に陥りがちなこのコンピ地獄に回避法はあるのか?次のページからその対策術を見る。