節税をもくろむ富裕層にとっては「定番」ともいえるシンガポール。現地で仕事ができる富裕層ならすぐに移住した方がいいというその理由は?現地でカモになる可能性が高いのはどんな人?特集『海外の節税 富裕層の相続』(全21回)の#9では富裕層座談会の番外編、シンガポール編をお届けしよう。
冬月礼司 富裕層の資産運用業務に従事
富士竜也 シンガポール在住金融業界関係者
シンガポールは富裕層には片目どころか
ほぼ両目つぶるダブルスタンダードの国
――節税のメッカみたいなイメージがあるシンガポール。最近の状況はどんな感じでしょうか?
冬月 シンガポールには節税目的で滞在してる40億~50億円クラスの資産の日本人の富裕層はうじゃうじゃいるし、上場会社のオーナーも何人も来ていますね。著名人が移住目的で来て、結局日本に帰る事例も多い。数十億円をシンガポールに預けに来る著名人もいるし。海外の売り上げを日本に入れないでボストンバッグで持ってきて、そのままシンガポールに入金したりとかしている人が以前は多かった。こういう裏のカネを手数料10%取って運ぶ、運び屋もいました。
富士 そう、シンガポールって変なカネがめちゃめちゃあるんですよ。「あったんです」と言った方がいいかな。ここは割と現金社会なのでマネーロンダリングが起こりやすいんですよ。ちょっと前は銀行だって500万円とか1000万円とか、キャッシュで渡してましたからね。4~5年前に廃止されるまで、1万シンガポールドル紙幣というのがあったんですが、1万ドルで80万円ですからね。つまりボストンバッグ1個に80億円分詰められる。ボストンバッグに現金詰めてマンション買ったみたいな笑い話もあります。日本円だとこれは無理でしょ。
あと、謎な人物もいっぱいいます。日本で戸籍がないとか、過去の経歴全部消し去ってる人とか。自己破産して名前変えてる人とか。あと反社のフロントみたいな人とか。ここってまだそういう人が生息できるんですよ。カネさえ持ってればウエルカムですね。
こういう状況も、2018年以降グローバル課税が話題になったここ何年かで表向きにはかなり変わった。でもシンガポール政府は国際向けには「マネロンは厳しく取り締まり国際協調します」ってよろしくやりながら、タックスヘイブンとして怪しいカネの動きに対しては、片目どころか片目+4分の3目くらいつぶってます。それが産業だから。この国のビジネスモデルってダブルスタンダードが前提。貧乏人はどうでもいい、カネ持ってる人を何とかしよう、ってモデルなので。
――おお……。いきなり具体的な話がきましたね。国ぐるみで富裕層ゲットのために本音と建前を使い分けている国なんですね、シンガポールは。具体的にどんなことをしているんでしょうか?