100年に1度の水土砂災害から生き延びるには、川ではなく「流域」に注意せよ本来「治水」とは行政区分で行うのではなく、それらをまたいだ「流域」単位で行わなければ、根本的な問題は解決できない(写真は西日本豪雨で浸水した車) Photo:PIXTA

レビュー

「100年に一度の豪雨」という言葉を毎年のように聞くようになったのは、いつ頃からだろうか。2018年の西日本豪雨、19年の台風19号と21号、20年の熊本豪雨、そして21年7月に熱海を襲った豪雨と土石流災害。いずれも多くの被災者を出した大災害であり、思い出すだけでも恐ろしく、胸が痛む。

『生きのびるための流域思考』『生きのびるための流域思考』 岸 由二著 筑摩書房刊 946円(税込)

 豪雨を生み出す主因は、地球規模の温暖化だと考えられる。温暖化によって世界各地が異常気象に見舞われ、記録的な猛暑や水害、熱による自然発火の森林火災などが頻発している。今後もこの傾向は続くだろうし、私たちも毎年「100年に一度の豪雨」に備えなければならない。

 水土砂災害というと、私たちはつい「○○市で起きた」など、市町村単位で発生するかのように捉えてしまう。しかし、川は県をまたいで流れているし、川に集まる雨水はさらに広い地域から流れてきているはずである。本来「治水」とは行政区分で行うのではなく、それらをまたいだ「流域」単位で行わなければ、根本的な問題は解決できない――。これが本書『生きのびるための流域思考』の主旨である。

 国もようやく動き出した。2020年、国土交通省の河川分科会は「流域治水」という方針を発表し、流域という枠組みでの治水をスタートさせた。本書では、流域の構造や水土砂災害が起こる仕組みについて丁寧に解説しながら、いち早く流域治水を始めた鶴見川流域(東京都町田市、神奈川県横浜市・川崎市)の取り組みも紹介している。