感染拡大初期から着手した
感染妊婦の受け入れ体制づくり

 具体的な、感染妊婦の受け入れで想定しなくてはならないリスクや必要な体制などについては、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科部長の吉岡信也医師に聞いた。

「一般の患者さんと同様で、感染した患者さんから医療スタッフや他の患者さんへの感染といった院内感染のリスクが生じます。ひとたび院内感染が起きると、他の患者さんへの多大な不利益だけでなく病院機能が大きく低下することによる地域医療への影響が生じます。

 妊婦の場合は、通常の新型コロナ感染治療だけではなく、切迫流早産などを含めた産科疾患に対する治療や胎児の状態の検査などにさらに人員を割く必要があります。また分娩に至る場合は、陣痛中や経腟分娩前後はウイルス排出が増加し、感染リスクが増します。帝王切開分娩でも、感染防御のための人員と十分な訓練が必要です。また出生した新生児に感染の可能性があり一定期間隔離が必要なため、小児科スタッフも対応に習熟していなければなりません。

 コロナに感染した妊婦さんの受け入れには、こうした感染リスクに対応できる体制と人員が必要です」

 感染妊婦の受け入れ体制は、一朝一夕で出来るものではないようだ。同院では、今から1年以上も前の、2020年3月に神戸市で初めての感染患者が発生した後から、パンデミックに備え、受け入れの対策を開始したという。

「救急外来などでPCR検査を受けて感染がないことを確認してからの入院となる他科と異なり、産科医療では陣痛発来や破水などで突然産科病棟に入院となります。その際にPCRの検査結果を待つ余裕がないことが多く、産科病棟での院内感染のリスクが憂慮されました。

 そこで当院では、入院時にPCR検査か抗原定量検査を行って結果が出るまでは感染の可能性があるものとして対応しました。これにはPCR検査や抗原定量検査の改良によって短時間で結果を得ることができるようになったことも役立ちました。

 またゾーニングが必ずしも徹底し難い産科病棟ではなく,新型コロナ専用病棟で感染妊婦の入院治療や分娩も対応することにしました」(吉岡医師)

 そして、新型コロナ専用病棟が満床になった場合には、EICUで引き受けるなど、想定できる事態への対応は、先手を打って決めてある。ただそれでも、院内では対応しきれないほど感染妊婦が増えてしまう可能性は否定できない。

「第5波では関東地方に遅れて兵庫県も感染が急速に広がりつつあります。第4波の時には、当院も受け入れ困難になりかけたので、県内への周知および市内複数の病院へ受け入れの準備をお願いしました。現在は、兵庫県産婦人科学会および神戸市産婦人科医会や行政と連携して受け入れ施設数の増加を急いでおり、当院が受け入れ不可能な際は他の病院へ受け入れを要請することにしています」(吉岡医師)

 同院は、以前から周辺の病院と連携し、高度な医療を必要とする段階を脱した患者については、可能な限り地域の病院に受け入れてもらうことで「断らない救急日本一」を地域ぐるみで実現させてきた実績がある。そうした経験がコロナ禍にも生きているといえる。