コロナ禍で起こった新生児死亡の悲劇、「断らない救急」医師たちが語る課題Photo:PIXTA

今年8月、千葉県内で新型コロナウイルスに感染した妊婦の搬送先が見つからず、自宅で早産、新生児が死亡する事態が起こった。妊婦と新生児を守るため、どんな方策が講じられるべきなのか。「断らない救急」を貫く病院の医師などの取材を通し、医療体制の課題と打つべき対策を探った。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

「仕方なかった」ではない
感染妊婦の自宅出産と赤ちゃん死亡

 悲劇は2021年8月、千葉県柏市で起きた。新型コロナウイルスに感染した妊婦が、入院先が見つからないまま、医師にも助産師にも見守られず、自宅で早産。赤ちゃんは亡くなってしまった。

 この女性は当初軽症扱いだったが、自宅待機中に血中酸素飽和度が93%を下回り、中等症相当となった。千葉県は「入院優先度判断スコア」を導入し、緊急度が高い順に入院させている。妊娠36週以降であれば「4点」の加点が付いて優先度が上がるが、女性は妊娠29週で対象外だった。同市は「一般のコロナ患者」として入院先を探したが、見つからなかったという。

 そして数日後。女性が腹部の張りを訴えた時点で、ようやく市は「コロナに感染した妊婦」として入院先探しを始めた。しかし時すでに遅く、結局、受け入れてくれる病院は最後まで見つからなかった。

 これは、医療崩壊下で起きてしまった“仕方のない”ことなのだろうか。そうは思わない。

 妊婦は自分一人の体ではない、二人分の生命だ。母体は変調をきたしやすく、ひとたび何かあれば、即赤ちゃんの生命に危険が及ぶ。生命は助かったとしても、障害が残る可能性もある。また、アメリカで今年8月に発表された論文では、「新型コロナに感染した妊婦はそうでない妊婦に比べ、死亡する確率が15倍、気管挿管が必要になる確率が14倍、早産になる確率が22倍高くなる」ことが報告されている。

 懸命に治療にあたっている医療現場を責める気持ちは毛頭ないが、ただ、できることならなんとしても助けてあげてほしかった。

 日本産婦人科医会常務理事の日本医科大学、中井章人教授はNHKの取材に対して「新型コロナに感染した妊婦については、感染対策の課題があり、受け入れ先が限られているのが現状だ。今回のようなケースは全国どこでも起こり得るもので全国的に感染した妊婦の搬送体制の強化が求められる」とコメントしているが、搬送体制を強化するだけで事態が改善するとは思えない。また、行政から医療機関に、協力を一律かつ一方的に要請するだけでは無理だ。

 では、妊婦と赤ちゃんを守るためにはどんな方策が必要なのか。共に大都市圏にありながら「断らない救急」を貫いている二つの病院、「神戸市立医療センター中央市民病院」(兵庫県神戸市)と「湘南鎌倉総合病院」(神奈川県鎌倉市)、そして地域の救急医療の最後の砦(とりで)として応需率100%を続けている「鳥取県立中央病院救命救急センター」(鳥取県鳥取市)、「公立豊岡病院但馬救命救急センター」(兵庫県豊岡市)を取材した。