締め切り間近の評論家が夢想に走るのは慢性の病気のようなものだ。2001年9月11日の米同時多発テロから4カ月がたった頃、恐らく筆者もそんな状態で、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)にコラムを書いていた。ダイアナ・クラールのポピュラー・アルバム「ザ・ルック・オブ・ラブ(The Look of Love)」がアマゾン・ドット・コムのCD売り上げ総合8位だという事実に感動し(ニューヨークのアッパーウエストサイドのマクドナルドでタイトルトラックを耳にしただけだったが)、あの日の恐怖は米国人の心の中に、まっすぐな、皮肉のない美しさへの欲求を呼び覚ましたのだと思った。「困難な時に私たちが必要としたのは美しさだった。そして、そうしたものの存在を、私たちは一瞬たりとも疑ったことはなかった」と筆者はコラムに書いた。