手を抜くことを全力で考える

 昔の体育会系だったら、根性で走れとか、気合で乗り切れと言っていたかもしれません。それよりも、現実にある100%の努力をいかに配分するかという点にもっと注力したほうが、効率的に、継続的に仕事をこなせるはずです。

 努力の配分とは、別の視点で見ると、「考える」ことの配分でもあります。ややこしい話になってしまいますけど、私は「考えないようにすること」をすごく考えます
「手を抜くべきこと」は手を抜かずに、しっかり考える。考える必要がないものは極力考えない。では何を考え、何を考えないのか。その配分をしっかり考える必要があるのです。

常に全力投球なんてムリ!

 私は小・中・高時代は水泳、大学時代はアメリカンフットボール、社会人になってからはボクシングをしてきました。いつの時代も各運動部のコーチによく言われました。
「常に全力を出せ!」

 率直に言ってしまうと、この言葉に違和感を持ちながら練習をしてきました。なぜ違和感を覚えたのかというと、常に全力、またはそれ以上を出し切っていると、どこかでひずみがきて、「本当に頑張るべきときに頑張れないのでは」と感じていたからです。
   それでも言われたとおり、常に全力で取り組んでいましたので、案の定、頑張る必要がないところで頑張りすぎてケガをしたり、本番で集中力を欠いて失敗することもありました。

 そして医学を学ぶにつれ、人間の体力・脳力には限界があるということを理解してきました。
   肉体は疲労が溜まるとパフォーマンスが明らかに低下します。体は水分が足りなくなったり、血糖値が下がったり、乳酸が蓄積したりすると、生体反応として如実に疲れやだるさが出てきます。その肉体の声を無視して頑張ると、体調の悪化や集中力低下につながり、結果的にパフォーマンスを大幅に落とすことになります。

 そのためにも手を抜けるところは手を抜いて、その間に栄養補給と疲労回復に努め、次に来る山を乗り越えるようにスタンバイをしておく必要があるのです。つまり、運動でも知的作業でも、力の緩急が必要だと思います。
   プロフェッショナルとは、このような力の入れどき・抜きどきをよくわかっている人なのではないでしょうか。