先人の型を真似ることによって、
美意識を自分の中に取り込むことができる

 だからこそ常に新しい世界にあえて飛び込んでいって、自身の感性に新しい経験を掛け合わせ、自分自身を更新し続ける必要があります。

 物に触れたり、体験したりする。自分がやったことがないこと、新しいことに触れていくということが大事です。

 たとえば茶道なども、先人が突き詰めていった美意識を身体化することによって、自らの美意識を拡張していく営みと言えます。

 千利休が言った「守破離(しゅはり)」の「守」の部分は、まず先人がつくった型に徹底的に従うことです。そうやって先人の美意識を自分の中に取り込みます。

 茶道で「畳のへりから七つ目の位置に茶入れを置いてください」というような型は、それに従うと実際に美しいのです。型に従うことで美意識を身体化させることができるのです。

 先人たちが追求した美意識を、その人が残した型を真似ることによって、自分の中に取り込むことができます。

 その上で「守破離」の「破」や「離」のプロセスは、それを破壊して、もう一回構築し直します。茶道に限らず「道」というものには、そうした美意識を取り込む仕組みが内在していると思います。

細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。