1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じでしょうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏です。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』が9月15日にダイヤモンド社から発売されました。「失われた30年」そして「コロナ自粛」で閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのでしょうか? 新しい時代を切り開く創造や革新のヒントはどこにあるのか? 同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けします。これからの時代を見通すヒント満載の本連載に、ぜひおつきあいください。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

イノベーションの秘訣は、国民的人気のアニメのキャラクターに学ぼうPhoto: Adobe Stock

妄想とは、ビジョンやアイデアの
ステルス戦闘機のようなもの

 創造と革新を生むための第二のポイントは、「妄想によるイノベーション」です。

 通常、スケールの大きいビジョンやアイデアは、固定観念というレーダーによって捕捉され、撃墜されます。上司や周囲からの「そんな前例はない」「技術的に不可能だ」「資金が足りない」などの反対意見です。

 しかし、妄想とはビジョンやアイデアのステルス戦闘機のようなもので、固定観念による追撃を軽やかにすり抜けます。

『ドラえもん』は、最初に漫画が始まってからすでに五〇年以上の月日が経っているのに、いまだ人気が衰えない私も大好きな作品です。日本が生んだ不朽の名作と言えるでしょう。

 なぜ、ドラえもんがいつまでも人気を集めるかといえば、現実ではありえない、私たちの途方もない妄想を実現してくれるからだと思います。

「絶対にできっこない」スケールの大きな妄想を実現してくれるからこそ、ドラえもんの物語は人に愛され続けているのではないでしょうか。

 世界中の行きたい場所に、瞬時に移動したい。空を自由に飛び回ってみたい。時間をさかのぼって歴史上の憧れの人に会ってみたい……。すべては妄想ですが、ドラえもんがポケットから出す道具は、あらゆる妄想を実現してくれます。

 実際、五〇年の月日が過ぎても、「どこでもドア」や「タイムマシン」といった、ドラえもんが叶えてくれる夢の道具は、まだ科学の世界で実現していません。だからこそドラえもんの道具は、いまだ私たちにとって、憧れの世界なのです。