1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じでしょうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏です。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』が9月15日にダイヤモンド社から発売されます。「失われた30年」そして「コロナ自粛」で閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 新しい時代を切り開く創造と革新のヒントはどこにあるのか? 同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けします。これからの時代を見通すためのヒント満載の本連載に、ぜひおつきあいください。

ディオール、シャネル、エルメス、カルティエ、世界の一流ブランドをとりこにする日本の美意識とは何かPhoto: Adobe Stock

織物の世界の固定観念を打破し、
イノベーションを起こし続ける

 皆さま、はじめまして。細尾真孝です。

 私は、一六八八年に京都で創業した西陣織(にしじんおり)の織屋「細尾」の一二代目の経営者です。江戸時代から西陣織の織屋として事業を営んできた細尾は、私の曾祖父の代にきものの問屋業を始めました。織屋と問屋の二つが、現在の細尾のビジネスの柱です。

 西陣織は、京都を代表する伝統工芸(伝統的な技術、技巧により製造されるもの)の一つであることは、皆さんもご存じかと思います。

 平安時代から一二〇〇年の長きにわたり、天皇家や将軍家、貴族や神社仏閣に向け、究極の美を追求した織物をつくり続けてきました。

 しかし、私が二〇〇八年に家業に入った当初、西陣織は大きな危機にありました。この三〇年のうちに国内のきものの市場規模は、一・五兆円あったものが二八〇〇億円ほどへと激減し、西陣織においては一〇分の一の規模にまで縮小してしまったのです。

 私が小学生の頃は、西陣という街自体に夜中まで機(はた)の音が響いていました。ところが中学生の頃から機の音は徐々に消えていって、町家(まちや)はどんどんマンションへと建て替えられていきました。

 日本の伝統工芸として誰もが名前を知っている「西陣織」は、それを作り出してきた街ごと、瀕死の状態にあるのです。

 そんな危機的状況の中、私は、織物の世界の固定観念を打破し、技術や意識を改革しながら、イノベーションを起こし続けることでなんとか乗り越えようと、日々試行錯誤しています。