MaaSのデータ活用と
プラットフォーム化の可能性
古川 : 一方でMaaSはビジネスとしての収益確保が難しいといわれていますが、収益化についてはどのように考えていますか。
須永 : 「次の時代」と言いましたが、実はモビリティで三井不動産にどんなプロフィットがあるのか、正直なところはっきりとはわかっていません。私の部署は経営陣から、利益目標はいっさい言われていません。その代わり「生活態様の変化や社会的な課題解決につながる大きな夢のあるものを持って来い」と言われています。
不動産業はもともと、回収までのスパンが長い事業です。街づくり全体として回収できればいいし、次世代のある種のプラットフォームができて、それを使いこなせれば、三井不動産として大きな武器になる、そんな考え方ができます。我々にとってのMaaSは、それに近い領域にあるのかもしれません。
古川 : いま、MaaSの世界にはさまざまなプレーヤーがいて、混沌としています。生活者の視点でも、どれを使ったらどんなベネフィットがあるのか見えづらい状態です。
こういう新しいビジネスが生まれる時、誰が勝ち組になるのかについて、我々の社内で少し研究したことがあるのですが、たとえば19世紀アメリカのゴールドラッシュで本当に儲けたのは金の採掘業者ではなく、送金の仕組みをつくった銀行や、作業着をつくった衣料メーカーでした。勝ち組になりうるのは中核の直接的な事業者ではなく、周囲の、または共通で利用できるアセットを生み出す者です。そして、機能やプラットフォーム、インフラといったものを提供する者です。
そう考えると、街づくりでは人の動きや購買履歴、生活にひも付くさまざまなデータが存在しているわけです。それらを横軸でつなげて新たな価値を生み出す機能を持たせて利用していく。これは大きなテーマだろうと思います。
須永 : おっしゃる通り、街づくりでは膨大なデータが入ってきます。これを有益な形で分析・活用することがポイントになります。移動に関するデータもその一つになるわけですが、方向性としては、データを独占して切り売りするのではなく、情報の主権は個人に属したまま、データベースに情報をため、個人にメリットがあるものにしたいと思っています。
MaaSが本格的に稼働すると、そのデータは非常に重要なものになります。移動だけではない人々の行動を、MaaSのソフトウェアがひも付けることができれば、まさにプラットフォームとしての価値が生まれます。
古川 : 民間企業が行政と一緒に、本当の意味で生活者のためにデータ活用をしながらビジネスをつくっていく時が来ているかもしれません。行政や自治体とのそうした取り組みはしていらっしゃいますか。
須永 : 当社が街づくりに関わる柏の葉(千葉県)において、「柏の葉街づくり推進部」という部門が行っている取り組みがあります。この街の居住者や、病院・大学に働きに来ている人、ホテルに泊まっている人のデータなど、個人の許諾をいただくことが前提ですが、このようなデータを組み合わせることにより、どのような新しい価値を創造できるのか、実験を進めているところです。
柏の葉でモデルが確立できれば、日本橋などに広げて、よい顧客体験の実現につなげられると思います。こういう取り組みをじっくり進めていけるのも、不動産会社の強みだと思います。