事業会社の垣根を超えて
イノベーションチームが活動
山本 : 一般論として申し上げれば、脱炭素化に向けた目標を設定する場合、「RE100」(注1)や「TCFD」(注2)などの枠組みに参加したり、参考にしたりしながら自社で定義した具体的なCO2削減対策を立て、目標に落とし込んでいくことが必要です。御社はどのようなプロセスで目標を設定されたのでしょうか。
注1) 自社で使用する電力の100%を再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際的なイニシアティブ。
注2) 気候関連財務情報開示タスクフォース。各国の中央銀行・金融当局や国際機関が参加する金融安定理事会(FSB)が2015年に設立したコンソーシアム。
釣流 : 基本的にはファクトとエビデンスの積み上げによって策定しました。すべての店舗と事業における実態を徹底的に洗い出し、どこまで改善できるのかを緻密に計算しながら、2年がかりで積み上げました。
これがセブン&アイグループの伝統であり、強みだと思います。代表取締役社長である井阪隆一が常日頃からエビデンスの重要性を説いていますし、「信頼と誠実」という社是を掲げているわけですから、計画づくりも誠実な態度で臨まなければなりません。最終的には、2050年からバックキャスティングして積み上げとの差を確認しました。かなり野心的な目標となっています。国内最大の店舗網を持つ企業グループの責任として、サステナビリティのフロントランナーであるべきだと考えたからです。
山本 : 御社は、国際環境イニシアティブの一つであるSBT(Science-Based Targets:科学的根拠に基づく目標)にコミットメントして、2023年までに認定を目指しておられますね。SBTは、CO2排出量をスコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出)までを含むので、非常にハードルが高いものです。それだけにSBTに取り組むことが投資家からも高く評価されますし、御社の企業価値向上につながると思います。
目標達成に向けてはさまざまな変革が求められますが、推進役となるイノベーションチームの役割は重大ですね。
釣流 : 従来、各種プロジェクトは事業会社ごとに行っていましたが、先ほど申し上げたように、「GREEN CHALLENGE 2050」では事業の垣根を超え、グループ横断の組織としてイノベーションチームを編成したのが大きなポイントでした。
事業会社ごとの取り組みだけでなく、グループとしての取り組みにも“自分事”として責任を持ってもらうためです。
各事業会社がそれぞれに取り組んできたサステナビリティ実現のための施策や技術を持ち寄り、互いに切磋琢磨し合うことで、変革のスピードを高めたいという狙いもあります。
また、各チームのリーダーは、いずれもお取引先様と深い関わりを持っているので、サプライチェーン全体に脱炭素に向けた取り組みの必要性を強いメッセージとして発信できます。取り組みに対する理解を深めていただくと同時に、お取引先様からの助言や技術協力などを仰ぐことで、イノベーションを加速させていきたいと考えています。