投資家の期待に応えたKDDIの取り組み

デジタルESGの可能性

215種類もの指標データを収集
分析・可視化で見えたこと

投資家の期待に応えたKDDIの取り組み

最勝寺 : おっしゃるように、大変だったのはデータの収集です。今回のプロジェクトに際して、さまざまな部署から多様な指標のデータを集めました。これまでは、統合レポートなどで開示できるものに限って情報収集していたのですが、少しでも多くの指標を分析したいと考え、集められるデータはなるべく収集するように努めました。なかには「なぜ、そのようなデータを出す必要があるのか」さらには、「外には出したくない」などの声もあり、各部署の理解が欠かせないと感じました。

 そこで、非財務情報の開示の必要性などを一つひとつていねいに説明していきました。最終的に20以上の部署の協力により215種類に及ぶデータを分析することができました。どれも単年度のデータではなく、過去10年間程度の推移が追えるデータです。分析した結果、よい傾向を示すデータもあれば、望ましくない相関を示すデータもありました。今後ESGをさらに強化するためには、ネガティブなデータにも目を向けて改善していくことが大事ですから、今回、多岐にわたるデータを収集できたことも大きなメリットだったと思います。

今野 : 一般に5年間ほどのデータがあれば分析が可能ですが、どのESG関連活動がその企業の価値向上に資するものであるかは企業によって異なります。また、どのぐらいの年数を経て企業価値にインパクトをもたらすのかにも差があります。ただ、はっきり言えることは、継続的に同じ指標でデータを取り続けることが大事だということです。それこそが、長期的かつ継続的、すなわちサステナブルな事業活動によって自社の価値向上に結び付いていることを証明する前提だと思います。

 KDDIの場合、CO2排出量削減を進めていくと企業価値が上がるという相関を導き出すことができました。カーボンニュートラルの大きな潮流もあり、どの企業もCO2の削減には取り組んでいると思います。しかし、環境系の取り組みはコストがかかることから、なかなか企業価値に結び付きづらいと考えている企業も多いようです。その中でKDDIの場合は、そこが価値につながっていることがわかった点は大きいと感じます。

最勝寺 : 今回の取り組みでは、当社グループで行う「KDDIフィロソフィ勉強会」の開催数が、PBR(株価純資産倍率)との間に正の相関関係があるという分析結果も出ました。KDDIは2000年に第二電電(DDI)、国際電信電話(KDD)、日本移動通信(IDO)が合併して発足し、その後「KDDIフィロソフィ」を改定したのを機に、フィロソフィを社内浸透させるための「KDDIフィロソフィ勉強会」を継続的に開催しています。当初はそれをネガティブにとらえる社員もいましたが、いまはそのようなことを言う社員はほとんどいなくなりました。企業にとって重要なことであるという認識が定着しているからだと思います。

 ただ、これが定量的に企業価値向上につながっていると確信を持てる人は少なく、本部長以上を対象とした「フィロソフィ本部長勉強会」で企業価値と相関があるという分析結果を紹介すると、大きな反応がありました。コストセンターと見られがちな間接部門においても、守りの活動だけでなく、企業価値向上につながる攻めの活動になると気づき、自信につながりました。

今野 : まさにその通りですね。ESGは最近になって新しく出てきたものではなく、その中身を見れば、おそらく企業の皆様がこれをやれば従業員のモチベーションが上がる、取引先や地域社会、顧客からの信頼が向上する、と肌感覚で認識していたことだと思います。それが本当に狙い通りの効果を出していたことが、データとして確認できたということだと思います。

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