「自分は悪者にはなりなくない」「問題が起きれば、部下のせい」――こうしたエゴイストな上司にほんろうされる部下がいる。得てして、まじめな性格で、人を疑うことを知らないタイプである。しかし、そういうタイプが抱える内なる苦しみは、周りからなかなか理解されることはない。
今回は、上司の利己的な思惑を見抜くことができずに、女たちとのいわば「代理戦争」をさせられた男性社員を紹介する。彼が「負け組」となった理由とは――。
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■今回の主人公
東條幸夫(仮名、33歳男性)
勤務先:中堅の教材販売会社。従業員数250人。創業は終戦直後と古く、安定成長を長く続けてきた。しかし、90年代前半に赤字に転落以降、勢いを失う。社長は変わり続け、社内遊泳術に長けた管理職が、必要以上に力をもつことになる。
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(※この記事は、取材した情報をプライバシー保護の観点から、一部デフォルメしています。)
「3バカ女」の
扱いをめぐって
喫煙室は、2人だけになった。企画室室長の結城(49歳)が、東條に話しかける。
「君は、ストレートすぎるんだよ」
東條は、口にくわえていたタバコを握りしめて答える。
「いや、ですけど……あの人の仕事はひどすぎます」
「小泉がさっそく俺のところに来たぞ。君の物言いが厳しい、と不満たらたらだ」
「不満?」
「あいつは自由が丘育ちで、お嬢さまだから、わがままなんだ。もっとうまく接してやってくれよ」
「いかんせん、彼女たちの仕事のレベルが低いのです」
結城はタバコを吸いながら、話し続ける。
「あのレベルの女たちならば、もっと簡単にコントロールできないと、君は課長補佐になれないぞ」
東條は感情的な物言いで、反論した。
「じゃあ室長はなぜ、彼女たちに直接、言わないんですか?」
結城が、答える。
「室長の俺が言えば、角が立つだろう。あいつらをうまく動かしてくれよ。あの職場で頼りになるのは、君しかいないんだから」
「……」
「小泉は結婚して、さっそく産気づいている。近いうちに、休ませてくれと言ってくるよ。伊藤は弱音ばかり吐いていて、ナイーブ過ぎる。もはや、戦力外だ。大山は情緒不安定。あれじゃ、“3バカ女”だ」
東條は、早く話を終えたいと思った。結城は、職場の女には何も言わない。彼女たちには一切、注意指導をすることなく、「心優しい上司」を演じている。しかし裏では、女のことを小ばかにしている。女たちに何か言いたいときは、部下である自分に代弁させるのである。