東京・上野公園にある、西郷隆盛の銅像。特徴的なのは、「犬を連れている」ことだ。武士や軍人、政治家の銅像といえば立派な格好をしているのが普通だが、なぜ“普段着で愛犬連れ”だったのか。その理由をひもとくとともに、西郷と犬の関係から人物像を考察してみたい。(ジャーナリスト 桑畑正十郎)
普段着姿で愛犬連れ
上野の「西郷隆盛」銅像
2000年代以降、空前のペットブームだそうだ。消費動向調査などによると、国内の消費は冷え込み続けてきたが、一方でペット関連の消費はずっと右肩上がりなのだという。2020年度、新型コロナ下でもペット関連市場は1.6兆円規模にまでなった。筆者も公園に出掛けると、必ずと言っていいほど豆柴やらビーグルやらペットを散歩させている人とすれ違う。
犬と散歩と言えば、東京・上野公園(上野恩賜公園)の西郷さんは、なぜ犬を連れているのか? 愛犬家ならずとも不思議に思ったことはないだろうか。
銅像は馬にまたがっていたり、軍服など正装したり、立派な格好をしているものと相場が決まっている。ところが、西郷隆盛銅像は筒袖、薩摩絣(がすり)の丈の短い着流しに兵児(へこ)帯を締めた普段着姿で草履履き、愛犬ツンをお供に連れる――。実に「維新の三傑」と称される人物とは思えぬ、庶民的な姿で立っている。
ご存じの方もいるかもしれないが、西南戦争(1877年)で西郷隆盛が自決した鹿児島市城山のふもとに立つ西郷銅像は、陸軍大将の軍服姿でサーベルを携え、犬は連れていない。実は、上野に立つ西郷銅像も当初は軍服姿になるはずだった。