働き方に対する価値観が大きく変化している中で、従業員のパフォーマンスとエンゲージメントをどう高めるべきか。グローバルカンパニーから伝統的日本企業に転身して人事制度改革を指揮する三菱ケミカルの中田るみ子氏と、プロフェッショナル集団における働き方改革のリーダーを務めるアビームコンサルティングの岩井かおり氏の2人に、「個の尊重」時代の人材マネジメントについて聞いた。

ウイン・ウインで
共創的な組織に変革する

編集部(以下青文字):2017年に3社(三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨン)の経営統合で誕生した三菱ケミカルは、2019年より本格的な人事制度改革に着手しました。改革に踏み切った背景について教えてください。

社員の挑戦を<br />会社の成長に変える大改革三菱ケミカル
取締役 常務執行役員 リソース所管(経理、広報、総務人事)

中田るみ子
RUMIKO NAKATA
慶應義塾大学卒業、エッソ石油入社。シンクタンク研究員を経て、2000年ファイザー製薬(現ファイザー)に人事企画担当マネジャーとして入社。2014年より取締役執行役員人事・総務部門長を務めた。2018年三菱ケミカルに執行役員ダイバーシティ推進担当として招聘され、2019年より常務執行役員人事部所管。2021年4月より現職。

中田:まず挙げられるのが、市場環境の変化とグローバル競争の激化、労働人口の減少です。働き手の価値観も大きく変化し、人材も多様化しています。個々が主体的にキャリアを積み上げ、会社もその挑戦を支援し、自社の成長へとつなげていく。そうしたウイン・ウインで共創的な組織に変革しなければならないという問題意識が経営陣にありました。

 外資系製薬会社の人事総務担当役員から2018年に三菱ケミカルへと転身した私は、すぐに全国の拠点を回り、現場へのヒアリングを始めました。その中で感じたのは、社員は真面目で志が高く、仕事に意義を感じてこつこつと頑張るタイプが多いことです。一方で、その能力を存分に発揮できていないように感じることもありました。みんなの可能性をもっと広げてあげたいと強く思いました。

 現場の声と経営陣の思いは、翌2019年に「三菱ケミカルは決めました」と題した30の宣言に結実します。

中田:社員の声に対して会社の想いを届けたいとまとめたのが、この宣言です。発表に当たっては、各拠点の人事や拠点長、役員、労働組合とも議論し、確認を得たうえで行っています。30項目ある各宣言のレベルは「ハラスメントゼロ職場」「育児や介護は貴重な体験」など、社員一人ひとりが具体的な改革をイメージできる粒度にしています。

社員の挑戦を<br />会社の成長に変える大改革 アビームコンサルティング
執行役員 プリンシパル CWO(チーフ・ワークスタイル・イノベーション・オフィサー)
岩井かおり
KAORI IWAI
食品会社の商社部門勤務を経て、2000年アビームコンサルティングに入社。グローバル経営基盤導入など、プリンシパルとして多数のプロジェクトを率いた経験を持つ。現在はアウトソーシングサービス担当、サステナビリティユニット長に加え、CWO(チーフ・ワークスタイル・イノベーション・オフィサー)として働き方改革のリーダーも務める。

岩井:現場を巻き込むことで宣言をより実践的なものにし、「決めました」というフレーズに経営の確固たる意志も感じます。

 2021年1月に発表された新人事制度は、等級報酬制度や人事異動公募制など「ジョブ型雇用」への移行が鮮明です。ジョブ型は日本企業にとって難易度の高い改革といえますが、どのような工夫をされたのでしょうか。

中田:管理職には2017年の3社統合時から職務グレード制度を導入しており、職務という考えは理解されていました。よって今回の新人事制度スタートに当たっては、従来のものを一歩進め、全管理職がジョブディスクリプションを作成し、職務評価を行いました。業務上のタスクではなく、自身の役職に課された責任について書いてもらっています。職務評価の結果は、役員とも時間をかけて議論し、組織のミッションを明確にしたうえで管理職にフィードバックしました。

 一般社員には2021年から役割等級制度を導入しました。等級定義に基づいて役割等級を設定し、成果や貢献度合いを評価します。

 ジョブ型はキャリアの固定化につながるとの懸念もあります。ジョブ型スペシャリスト集団であるアビームコンサルティングは、どのようにメンバーの成長を支援していますか。

岩井:スペシャリストとして求められるのは、縦軸(専門性)を深め、横軸(多様性)を広げる「T字型」人材だと考えています。

 縦軸である専門性深化は、担当プロジェクトの現場で学ぶのはもちろんのこと、スキルやリテラシーを可視化し、カウンセラーによるキャリア面談を通じて学習プランを立てるなど、組織としての教育支援も行っています。

 また横軸である多様性確保については、スキルの横展開やピボットにより新たな領域のプロジェクトにも参加させることもありますし、多様な知見や視点を取り込んでもらうために、さまざまな企業とのプロジェクトチーム結成なども積極的に行っています。さらには、業務外で学ぶことも推奨しています。たとえばプロボノとしてNPOを支援するなど、会社とは違うコミュニティに属することで個人としての多様性を高めることができるのです。こうした縦軸と横軸を持ったT字型の人材づくりを進めています。

 岩井さんはプロジェクトを率いるプリンシパルとしてだけでなく、CWO(チーフ・ワークスタイル・イノベーション・オフィサー)も務め、働き方改革のリーダーでもあります。

岩井:私がCWOを引き受けたのは、このポジションをつくった経営の明確な意志に共感したからです。当社の働き方改革は、ダイバーシティ&インクルージョン、スマートワーク、ウェルビーイングの3つから成りますが、人事からコンサルタントまで多様なメンバーで改革チームが編成されていて、これなら本当に改革できると確信しています。私も、コンサルティングサービスの現場を率いるリーダーとしての経験と働き方改革をリードする立場での視点、双方の経験を活かし、現場の課題を解決していきたいと思っています。