社員の可能性を広げる
「公募制」の人事異動

 三菱ケミカルの人事制度改革の本丸といえるのが、「人事異動の公募制」です。組織や社員にどのような変化をもたらしましたか。

中田:公募制は社員の主体性や能力を伸ばすための要の施策です。年4回のチャンスがあり、これまで約800人が応募し、約500人が新たな部署に異動しました。円滑な運用には上司と部下の日頃のコミュニケーションが不可欠なため、1on1で、キャリアや仕事観を双方が共有する形にしています。これ以外に年1回のキャリア面談も設けています。

 また、非異動者にも好影響が出ています。さまざまな公募異動を目の当たりにすることで、「自分の仕事を見直す機会になった」「主体的なキャリア選択ができるので、中長期的にキャリアを考えるようになった」という声が挙がっています。さらには上司のマネジメント力向上にも直結します。部下がいつ公募異動でいなくなるかわからないので、1on1の重要性をあらためて認識し、部下のキャリア志向を把握するよう努めているようです。

岩井:優秀な部下が出ていくのを嘆くのではなく、流動性を前提にした人材育成と組織運営の計画を立てることが管理職に求められますね。その意味で、公募制は新たな組織カルチャーも生みそうです。

 とはいえ多くの企業で、現場の中核を担う中間管理職のタスクは増えるばかりです。「忙しすぎるミドル」にどう対処しますか。

中田:当社でも、この問題は切実です。ミドルの声を聞き、デジタル化による効率化も含めて日常業務の負担軽減に取り組んでいますが、簡単に解決できる問題ではありません。業務上のタスクではなく、自身の役職に課された責任は何かを理解し、そのうえで権限委譲を進める、業務のプロセスを見直すなど、いくつかの施策を組み合わせて改善していきたいと考えています。

岩井:アビームでも、マネジャーには「判断」する仕事にフォーカスするよう働きかけています。一定の定型業務を社内のシェアードサポートサービスに集約したり、ワークフローをデジタル化するなど、業務軽減に対応しています。優秀な人ほどハンズオンの業務から離れがたいようですが、仕事を手放す勇気を持ち、経営視点で意思決定や部下育成ができるミドルを目指してほしいですね。

「個の尊重」を重視した制度改革と
ダイバーシティ&インクルージョン

 コロナ禍によるリモートワーク加速もあり、近年は場所に縛られない働き方、特に大企業の「転勤廃止」が注目されています。

中田:当社も、2021年から本人同意のない一般社員の転勤禁止、勤務地継続や勤務地希望を申告できる制度を導入しました。その結果、地方で暮らしながら東京本社の部署に所属し、基本はリモートで働き、必要に応じて東京に出社する、そんなワークスタイルを実践する社員が増えています。これは社員のワークライフバランス向上だけでなく、地方の優秀な人材を獲得できるチャンスとして採用面でも大きなメリットがあるといえます。

岩井:アビームは、働く場所を選べるフリーロケーション制を採用しています。プロジェクト始動時は対面の場をつくるために出社し、後工程はリモートなど、臨機応変に組み合わせが可能です。フルリモート制度もあり、配偶者の転勤や家族の介護などで地方に転居しても働き続けることができます。日々のオンライン会議では、「今日はどこから?」というあいさつが、みんなの口癖になっています。

 いま日本企業は「ダイバーシティ&インクルージョン」を進めていますが、多様性はよい意味で遠心力が働く一方で、行きすぎると組織はまとまりを失いかねません。そこで近年では、求心力となる「パーパス経営」が注目されています。

中田:当社は「KAITEKI」というコンセプトの下、「化学の力で地球を救う、あなたと共に未来を創る」をミッションに掲げました。そのミッション達成のため、「たゆまぬ挑戦」「とらわれない心」など日々の行動指針ともいうべき5つのバリューも定めています。当社のKAITEKI経営を実現するのは、ほかでもない社員一人ひとりです。彼らが安心してともに挑戦できる組織づくりのため、これからも改革を続けていきます。

岩井:アビームでは多様性の中で求心力を生む工夫として、ブランドステートメントやスローガンに加え、社員全員が目指す姿として「ABeam Business Athlete(R)」を掲げました。プロのアスリートがパフォーマンス最大化のためにさまざまなメンタルやフィジカルトレーニングを行うように、我々ビジネスプロフェッショナルも、個人、チームとして最大限の力を発揮するためにコンディションを整えて自律的に成長すること。機会や場面に応じて最大の結果を出し、変化や挑戦にもしなやかに対応できること。それが重要です。

 また、クライアントニーズが多様化、複雑化する中で、個性豊かなメンバーの力をチームとしての大きな力に変えて課題解決に挑むためには、働きやすさと働きがいの両立が不可欠です。「働きやすさ」とは、結婚や育児、介護などのライフイベントに直面しても働き続けられる制度があり、それをみずから選び使える環境があること。そのうえで会社の理念に共感し、ここにいることで自分が成長していると実感できる「働きがい」があることが大切です。コンサルティングファームは、人こそが価値の源泉です。個々が活きいきと幸せに働くための土台づくりに、CWOとしてこれからも取り組んでいきます。

企画・編集|ダイヤモンドクォータリー編集部