現役最強棋士・渡辺明名人が考える「AIとの向き合い方」とは?現役最強棋士・渡辺明名人が考える「AIとの向き合い方」とは?

「AI(人工知能)が人間の仕事を奪うのではないか」と危惧されて久しい。AIは着実に進化し、少しずつビジネスで活用されている。だが、現代のAIは分析結果こそ示せるが、その結論に至った理由までは説明できない。AIの指示に従っているだけでは、人間の思考力は育たないのだ。トップ棋士・渡辺明名人によると、すでにAIが普及している将棋界でも、その活用法によって成績が大きく変わるという。ダイヤモンド・オンラインがお届けしている、渡辺明名人と経済学者・入山章栄氏の対談動画(全4回)から、その理由を書き起こした記事を特別公開する。(ダイヤモンド編集部 濱口翔太郎)

>> 人気経済学者が各界の第一人者と対談!特集『入山章栄×超一流対談』(全9回)の動画はこちらから

将棋界ではAI活用が常識
過渡期はすでに「終わっている」

「将棋の世界では過渡期は終わっています。今、AI(人工知能)を使い始めようと考えている人はほぼいません」――

 将棋界で“現役最強”と称される渡辺明名人は、プロ棋士におけるAIの普及率の高さをこう説明する。

 というのも、将棋の世界では「偶然の要素に左右されない」「相手が持ち駒を隠さない」といったゲーム性との相性の良さから、指し手の研究においてAIが広く使われてきた。

「早い人では2015年、遅い人でも18年に使い始めた」(渡辺名人)ほどで、今ではAI活用は“常識”になっているという。渡辺名人も17年ごろからAIを使った研究に取り組んできた。

 AIが将棋界にもたらしたインパクトは相当なもので、「今までは定跡(最善とされる決まった指し方)が一手進むのに10年かかっていたのが、それが1日に済むようになった」(渡辺名人)ほどである。

 しかし、AIが普及した将棋界では思わぬ事態が起きた。誰もがAIの力を借りられるため、分析や研究のスキル面でライバル棋士とあまり差がつかなくなったのだ。

「将棋の世界では、この先大きな革命は起きないでしょう」と、渡辺名人は状況を冷静に見ている。

 では、このように誰もがAIを使える状況下にありながらも、なぜ渡辺名人は対局で結果を出し続けることができるのか。