唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

【意外に知らない医療の常識】気づかないうちに鼻水が「のど」に流れ込む…口臭の原因にもなる「後鼻漏」とは?Photo: Adobe Stock

涙と鼻水はなぜ一緒なのか?

 映画館で感動的な映画を見ていると、あちこちからズルズルと鼻をすする音が聞こえることがある。涙を流すと、同時に鼻水も出てくる、というのは経験上誰もがよく知っていることだ。

 なぜ鼻の調子が悪いわけでもないのに、涙と一緒に鼻水があふれるのだろうか?

 実は、目と鼻は繋がっていて、涙は鼻に流れ込むからである。「鼻の粘膜から分泌された液体ではない」という意味では、鼻炎などで出る鼻水とは性質が異なる。その証拠に、泣いたときに出る鼻水はさらさらしていて、あまり粘り気がないはずである。

 目と鼻をつなぐ管は「鼻涙管」と呼ばれている。まぶたの上の涙腺でつくられた涙は、目の表面を濡らし、目頭のところにある出口から目の外に出ていく。その後、涙のうという袋と鼻涙管を通って鼻腔に流れ込む。

 涙が出るのは、嬉しいときや悲しいとき、目にゴミが入ったときだけではない。普段から常に少しずつ分泌されていて、目の表面を濡らしているのだ。私たちがこれに気づかないのは、涙が常に鼻に排出されているからである(最終的にはのどに流れて意識せずに飲み込んでいる)。

 一方、泣いたときに涙が目からこぼれるのは、一定時間に排出できる量より、分泌される量のほうが上回るからである。逆に、怪我など何らかの理由で鼻涙管が詰まってしまうと、「悲しくないのに涙が流れる」という現象が起きる。「鼻涙管閉塞」と呼ばれる状態だ。普段から絶えず涙がつくられている証拠である。

耳と鼻もつながっている

 目と鼻だけでなく、鼻と口もつながっている。これは誰もがよく知っている。鼻の奥と口の奥は、いずれも「のど」である。

 鼻の奥のほうから鼻血が出ると、のどに垂れ込んで口から血が出てくることがある。また、気づかないうちに鼻水がのどの奥に流れ込んでいて、慢性的な咳の原因になることもある。これは、「後鼻漏」と呼ばれる現象だ。欧米の報告では、八週間以上咳が続く慢性咳嗽の原因のうち、二~三割を後鼻漏が占めている(1)。

 日本ではこれほど多くないと考えられているが、いずれにしても体の構造上、鼻水が頑固な咳を引き起こすことがあるのだ。また、副鼻腔炎にともなって後鼻漏が起こる場合、これが口臭や痰の原因になることもある(2)。鼻と口がつながっていることで、こうした多彩な症状が起こりうるのだ。なお、後鼻漏の治療の基本は、鼻の病気を治すことである。原因となりうる鼻の病気は多くあるため、専門家による診察が必要だ。

 一方、耳は、鼻の奥とも繋がっている。耳と鼻をつなぐのは、耳管と呼ばれる細い管である。耳は外耳・中耳・内耳の三領域に分けられ、前述の前庭や半規管、蝸牛のある部分を内耳、鼓膜より外側を外耳、中央部分を中耳と呼ぶ。

 耳管は中耳と鼻をつなぐ管である。耳管には、耳の中の気圧を調節する働きがある。

 例えば、飛行機が急に上昇するときや、エレベーターで高層ビルに昇ったときに、耳が塞がったような不快な感覚が起こることがあるだろう。これは、外界の気圧と耳の中(鼓室と呼ばれる鼓膜の内側の空間)の気圧に差が生じるからである。

 鼓室のほうが気圧が低いと、鼓膜が内側に押し込まれ、外界の気圧のほうが低いと鼓膜は外側に引っ張られる。これによって鼓膜の振動が妨げられ、耳の不快感が起こるのだ。

 また、あくびをしたり唾を飲み込んだりすると、この不快感は解消される。このとき、普段閉じている耳管が開き、空気が鼓室に出入りすることで外気圧と等しくなり、鼓膜の位置がもとに戻るからだ。

 ただし、鼻やのどの奥で細菌やウイルスが繁殖すると、これが耳管を通って耳の中に入り、耳に感染が広がることがある。これが中耳炎である。耳管は憎き病原体に通り道を与えてしまうこともあるのだ。

【参考文献】
(1)『咳嗽に関するガイドライン 第2版』(日本呼吸器学会 咳嗽に関するガイドライン第2版作成委員会編、二〇一二)
(2)「鼻の症状」日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(http://www.jibika.or.jp/citizens/daihyouteki2/hana_condition.html

(※本原稿は『すばらしい人体』を抜粋・再編集したものです)