『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
国際政治経済学を勉強していて、地政学や戦略に興味があります。初学者向けに分かりやすく学べる本はありませんか? ビジネス色のないものが有難いです。
「地政学」は本当にリアルなのか注意すべき
[読書猿の回答]
一冊あげるとするとA Very Short IntroductionのGeopoliticsの翻訳『地政学とは何か』でしょうか。
ただ著者のドッズの立場は、80年代後半以降登場した批判地政学(Critical Geopolitics)なので、普通にイメージされる地政学を期待していると面食らうかもしれません。
ざっくり地政学の歴史を振り返っておくと、下記の通りです。
国家の地理的位置/地理的条件の理解を通じて国家間の政治的/軍事的分析を行い、外交/軍事政策への貢献を目指す、といった、地政学と聞いて普通にイメージする学問は、第一次世界大戦後にはドイツや日本で発展しました。
これは、第二次大戦後、関係者が公職追放されたり、枢軸国の「侵略戦争」を正当化した学問分野として否定的な評価を受けます。
その反動もあって政治地理学というアカデミックな分野でも、国際的なスケールでの研究はさけて、もっと小さな範囲の選挙区分析や自治体合併を研究する、といったことがありました。
英語圏でも、ドイツ地政学への反感から長らく研究は盛んではありませんでしたが、1970年代あたりから次第に復興し、1980年代には英米の政治地理学でも再び国際関係を扱うようになり、「新しい地政学」という分野が登場します。
もう少し遅れて80年代後半から90年代前半にかけて登場してきたのが批判地政学Critical Geopoliticsという分野です。これは従来の地政学(区別のために古典地政学と呼びます)を一種の言説(地政言説といいます)の実践と考えるもので、地政学を対象とした言説分析(とイメージ分析)を行うものです。
批判地政学からすると、古典地政学(という地政言説)は次のような特徴をもっています。
1.世界情勢についての切実な問題意識(危機意識)
2.世界政治についての単純化(しばしば二分法による)された理解の枠組み
3.世界情勢についての将来予想を与えるかのような予言的レトリック
地政学を用いる戦略家自身は無論、その分析を受け入れ政策を立案実施する人たちもまた、その地政学的分析が世界情勢についてのリアルな認識だと思っている訳ですが、そこで紡がれる言説は「敵/味方」「文明/狂信」といった二分法で単純化された枠組みに基づく特定の視点/文脈から描かれたものです。
こうした視点に立てば、プロの地政学戦略家のみならず、例えば大衆向けメディアが流布する単純すぎる現実理解とそれが公衆に与える影響を「タブロイド地政学」(byデブリスク)といった概念で分析することもできます。