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この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

いつまで経っても政治がダメなのは、私たちが「なんとなく好きな人」に投票した結果であるPhoto: Adobe Stock

[質問]
政治に関心がありません

 自分は数年後には有権者となるのですが、あまり政治には関心がありません。しかし、自分の暮らしに関わることですから投票には行った方がいいと考えています。ですが、政治に関心がないためにどこに投票すべきかよく分かりませんし、そもそも自分の思想的な立ち位置もいまいちよく分かりません。

 まずは自分の思想をはっきりさせておきたいと考えているのですが、なにかおすすめの書籍を教えていただけないでしょうか。よろしくお願いします。

人間と社会のメカニズムを知ることが第一です

[読書猿の回答]
 有斐閣ストゥディア『ここから始める政治理論』でしょうか。ただ、どんな政治思想があるかを知ってその功罪を比較し自分に一番合うものを選べばよさそうですが、政治思想は実はあまり政策とリンクしていません。

 総じて言えば人々は長らく、選挙では思想に基づいて投票しても、政策に基づいては投票しませんでした。政策の方が生活に直結するのですが、数が多くて大小様々、しかし我々が投じられるのは一票きりだったからです。

 ここでいう「思想」は、政治思想(ナントカ主義)というより、あるいは自分の好みに一番近い考え方というより、つまるところ自分がつながる利害集団のことでした。その頃はまだ、多くの人が自分の生きる付き合いをたどれば、どこかの利害集団に繋がっていたからです。

 そして政策は、いろんな勢力間の綱引きで決まるものだったので、自分が投票した集団が一番になれなくても、綱引きの中で利害をねじ込むこともできない訳ではありませんでした。反対側の利害集団が求める政策でも、敵側が「あいつら勢いあるから、力を弱めてやろう」と思えば取り入れられたのです。

 今は少し様子が違います。投票が一票きり、多くの人が思想で投票先を決めるのが変わりませんが、まずどの利害集団にもつながってない人たちが増えました。昔は付き合いを通じて何も考えなくても投票先が決まりましたが、つながってない人たちはそうもいきません。

 そこで、利害のつながりがない人たちは、自分の好みや感覚に近い思想や投票先を選ぶことになりました。

 これによって利害集団に頼らない、細やかなニーズが政策に反映したかと言うとそうでもありません。

 むしろ耳目を集めやすい、より単純化した争点や逆張りだけを目的にした公約が横行し、これを愚直に政策として実行することで、様々な惨事が引き起こされました(今まさに我々はその渦中にいるのかもしれません)。

 好みという感情や感覚は即時的に反応するもので、「もし~だったら?」と〈今まだ起こっていないこと〉を考える仮説思考と相性がよくありません。結果についての推論を必要とする政策を扱うには不向きなのです。

 そんな訳で、これから選挙に行くことになる若い人たちには、政治思想もさることながら、人間と社会のメカニズムとを、そしてそうした知識と仮説思考を使って考える技術と習慣を、学んでいただきたいです。

 最後に参考文献を2冊挙げます。

 人間と社会のメカニズムについて、筒井淳也『社会を知るためには』(ちくまプリマー新書)。

 仮説思考を使って社会を考える技術について、苅谷剛彦『知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ』(講談社+α文庫)を。