プーチン大統領の、ある“成功体験”が、ウクライナ侵攻では仇(あだ)になった。加えて、こうした有事の際、日本政府や国民がもっと真剣に取り組むべきことがあるはずだ。元外交官がこの2テーマについて解説する。(著述家 山中俊之)
軍事力をてこに国内を掌握し
国外で覇権を誇示したい独裁者がいる
ロシアのウクライナ侵攻から2週間が経過したが、いまだ終息の気配はない。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、3月7日時点で民間人の死者数は406人。ただし、実際はもっと多いだろう。残念極まりないことだが。
ウクライナとロシア、双方が歩み寄る余地は小さく、また、有力な仲介者が不在ともいえる状況では、戦争の長期化・泥沼化が想定される。一時的な停戦合意はありえても、本格的な停戦と平和回復への道筋は描きにくいと思われる。双方の主張に隔たりが大きすぎるのだ。
終息の方向はまだ見えないが、これだけは言える。第二次大戦後の現代史において、分水嶺(ぶんすいれい)となる歴史的な大事件であることは間違いない。
もし、プーチン大統領のたくらみが、ウクライナの中立化といった形である程度でも成功すれば、今後、他国への軍事侵攻という手段が国際政治において有効になる。世界には、軍事力をてこに国内を掌握し、国外で覇権を誇示したい独裁者がごろごろいる。第二次大戦後の平和的な秩序が崩壊してしまう。
なぜ、これほど事態が深刻化しているのか。それはプーチン大統領の、ある“成功体験”が、ウクライナ侵攻では仇(あだ)になったと筆者は考えている。
加えて、こうした有事の際、日本政府や国民がもっと真剣に取り組むべきことがあると筆者は考える。次ページ以降で、この2テーマについて解説する。