ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、あまりに脆い国際秩序の実態を浮き彫りにした。戦後80年近くがたった今、日米同盟さえあれば他国の脅威から守られるとの「安全神話」も揺らぐ。北はロシア、西は中国や北朝鮮と向かい合う日本。「いざ」というとき、米国のジョー・バイデン大統領は本当に日本を守ってくれるのだろうか。(イトモス研究所所長 小倉健一)
孤立無援のウクライナ
米国もNATOも派兵は否定
「われわれは孤立無援で防戦している。共に戦ってくれる者はいないようだ」
ロシア軍の侵攻開始から一夜明けた2月25日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米国や北大西洋条約機構(NATO)からの支援が得られないことに悲壮感を漂わせた。主権国家があっという間に侵攻され、その模様がSNSなどで世界中に拡散。一方で、国連も米軍も介入せず「傍観者」となっている現状はあまりに衝撃的だ。
欧米主要国は、これまで首脳レベルでロシアのウラジミール・プーチン大統領の説得を試みるなど外交努力を続けてきた。しかし、実際に軍事侵攻が開始された後は無力だった。
「プーチン大統領はウクライナへの攻撃により、流血と破壊の道を選択した。英国と同盟国は断固対応する」(英国のボリス・ジョンソン首相)、「侵略者のプーチン大統領に代償を払わせる」(バイデン大統領)――。そう厳しく非難を浴びせるものの、軍事侵攻をストップさせるだけの行動力も影響力も持ち合わせていない。
各国は相次いで対ロ制裁を発動し、ウクライナへの支持と連帯を発信している。制裁に一定の効果はあるにせよ、ウクライナが渇望するのは「ただ戦況を見ているだけの傍観者が増えることではない」(外務省幹部)のは明らかだ。
ジョンソン首相は2月24日、ゼレンスキー大統領との電話会談で「西側諸国が傍観することはない」と伝えたというが、ウクライナの「孤立」は変わってはいない。
バイデン大統領は「NATO加盟国を守り、新たな動きに備える」として米軍の派遣を指示したものの、約7000人の派遣先はドイツ。東欧に紛争が波及する事態に備えたものだ。
NATOという軍事同盟に加盟していないウクライナに対しては、米大統領自ら「米軍はウクライナでの紛争に関与しない」と公言し、軍事介入の可能性を否定。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も、集団防衛義務を定めたNATO条約に基づき即応部隊を東欧に派遣すると表明したが、ウクライナへの派兵は否定している。
核放棄と引き換えに手にした
「安全保障の約束」が反故に
かつて世界3位の核保有国だったウクライナは1994年に締結した「ブダペスト覚書」で、米国、英国、ロシアが安全を保障する代わりに核兵器を放棄した。だが、米国からも英国からも援軍が得られず、当事国のロシアから軍事侵攻に遭っている状況だ。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は「米国が交わした安全保障の約束を守らなければならない」と憤る。
多くの国々は「力による一方的な現状変更は許さない」とロシアを非難するものの、ただ遠巻きから戦況を眺めているだけだ。これでは「侵略した者の勝ち」を認めると言われても仕方ないだろう。
米国にいたっては、世界最強の情報収集能力で早い段階からロシアの軍事侵攻計画をキャッチしていたものの、プーチン大統領の本気度を見誤って包囲網構築に失敗。侵攻後に目立つ動きといえば、ロシア軍の動きを伝える「実況中継」のような公式発表ばかりだ。「世界の警察」とまでいわれた米国のプレゼンス低下は隠せない。
ここで一つの問題が浮かび上がる。それは、日本がウクライナと同じような状況に陥った場合、米国は本当に守ってくれるのかという点だ。