インフレ率の上昇は、中間選挙に向けたアキレス腱だったが、ウクライナ危機を契機に、その原因をロシアに求める論法に転じているわけだ。

 ロシアに対する経済制裁により、インフレはさらに悪化する可能性が高いが、その予防線ともいえる戦略だ。

 ウクライナ危機により、民主党が受け身に回っている論点への注目度が、相対的に低下することを期待する向きもある。

 共和党は、犯罪対策の弱さや、学校での人種教育のあり方など、「社会的な価値観」に関する問題の争点化を狙って攻勢をかけてきた。

 共和党が主張する保守的な価値観には、ヒスパニック層にも共感する傾向が広がりつつあり、民主党には伝統的な支持者の離反しかねない危機感がある。

 ウクライナ危機への関心の高まりで「価値観」に関する論点がかすめば、民主党にとっては好都合だ。

同盟国や民主主義の重要性を説く
“周回遅れの大統領”に二度目のチャンス

 ウクライナ危機が政権の求心力回復の契機になるためには、欧米が連携して制裁などの強硬措置を交えて対ロシアに圧力をかけ、危機を収束に向かわせることが必要だが、実際、バイデン氏の周囲には、ウクライナ危機こそが、同氏の資質が生かされる好機と考えている側近もいる。

 バイデン氏は上院外交委員会の委員長を務めるなど、議員時代から外交問題への関わりが深い。民主主義の重要性を説き、同盟国との関係、特にNATO(北大西洋条約機構)をはじめとする欧州との結びつきを重視する。

 こうした伝統的な考え方は、トランプ時代に代表される「米国第一主義」が広がり、一方で急台頭した中国との対峙に関心がシフトする昨今の米国の潮流からは、取り残されているかのようだった。

 ウクライナ危機はバイデン氏が得意とする欧州で、持論である民主主義や同盟の強さを証明する機会といえる。

 周回遅れだったバイデン氏が、期せずして時代の最先端に躍り出たかのようだ。

 思い返せば2020年の大統領選挙も、予期せぬ危機であるコロナ禍の襲来によって、確かな手腕を求める機運が、ベテラン政治家に好機を与えた側面があった。

 その手腕に対する世論の信頼をバイデン氏は昨年夏のアフガン撤退の失態で一度は失った。ウクライナ危機は、バイデン氏が再び「正しい時に、正しいところにいた」政治家になれるかどうかの正念場ということでもある。

(みずほリサーチ&テクノロジーズ首席エコノミスト 安井明彦)

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