トランプだったら上手く回避できたかもしれない
ロシアとウクライナの停戦交渉がなかなか進まない。そんな中、アメリカのバイデン大統領が欧州入りし、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)の会議に出席するというニュースが飛び込んできた。
侵攻1カ月のタイミングで、欧米の「結束」をあらためて確認するとともに、経済制裁や人道支援について協議をするのだという。
と聞くと、「そんな生ぬるいことを言っているからプーチンがつけ上がるのではないか」と感じる人も多いだろう。SNSやネットの言説を見ていると、プーチン大統領が悲願としていたウクライナ侵攻に踏み切ったのは、バイデン大統領が就任してからの「弱腰外交」のせいだという人がかなり多いからだ。
確かに、バイデン大統領は昨年夏、タリバンから逃げ出すような形で米軍をアフガニスタンから撤退させたことや、ウクライナ問題でロシアとの交渉を打ち切っておきながら、早々に軍事介入をしないと宣言をしたことなどが国内外から批判を浴びている。この「弱いアメリカ」が、プーチン大統領の「侵攻欲」を一気に刺激したという指摘も多い。
そんなバイデン批判の流れで、一部の人々の間で興味深い主張が盛り上がっている。それは「トランプが大統領だったらこんな戦争は起きなかった」というものだ。
主張の出所は当然というか、「トランプ氏ご本人」である。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった際、バイデン政権やNATOに対して、「いいようにあしらわれている」と批判し、もし自分が大統領ならば「こんな茶番を止めるのは簡単だった」と述べた。この「トランプ節」に同調をする人が、日本国内にもかなりいらっしゃるのだ。
例えば、産経新聞の論説委員長・乾正人氏は「やっぱりトランプが良かった」(3月1日)というコラムの中で、トランプ氏の主張を「多分、その通りだったろう」と賛同し、22年に渡って専制君主的にロシアを統治してきたプーチン大統領に、バイデン氏の「常識人」的な対応は通用しないと指摘している。
また、元外交官でロシア政治に精通している作家の佐藤優氏も、トランプの主張を「意外と事柄の本質を突いている」(プレジデントオンライン3月2日)という。トランプ氏がアメリカの大統領ならモスクワに飛んで、プーチン大統領とサシで会談をして、「ウクライナに侵攻するならアメリカも軍を送る」と脅したうえで、取り引きを持ちかけて戦争を回避したのではないかという考えを示している。
このような主張を聞くと、「バカじゃないのか!トランプのような好戦的な差別主義者が戦争を引き起こすのがわからないのか!」と嘆く方も多いだろうが、有識者たちがこぞってそう主張されるのには、それなりの根拠がある。