>>(上)より続く

 私が指定の場所に到着した直後、既に到着していた愛美さんの前に男が1人現れました。すぐに愛美さんは50万円の入った紙袋を渡しました。男は受け取り、走り出しました。私は離れた場所でバイクに乗って待機していたパートナーと連絡を取りながら、男を走って追いかけました。男は何回か角を曲がってトータル300メートルほど走った場所に停車してあった車に乗り込み、発車しました。

尾行開始も
脅迫者に違和感

 私はパートナーのバイクの後ろに乗り、男の追跡を開始しました。二十数分ほど男の車を追跡して、男に尾行を警戒している様子が全く見られないことに私は違和感を覚えました。現金の受け渡し場所を急に変えてきたので、男は尾行を想定しているものだと思って慎重に追尾していましたが、尾行を考慮した「警戒行動あるある」の急に停車したり、曲がったり、Uターンしたり、周りをキョロキョロ見たり……などが何一つ見られないのです。ちょっとおかしいな、と思いつつも追尾を続けていると、男はとある“驚安の殿堂”の駐車場に入っていきました。

 その駐車場は屋外にあり、監視カメラも設置されていないようでした。私は、ついに「“警戒行動あるある”が出てきたな」と思いました。慎重に距離を取りつつも追尾を続けていると、男の車は駐車場の一番奥に停車しました。男の車を安全に監視できる場所で徒歩尾行に備えていると、男は車を降り、すぐさま隣に停車している車に乗り込みました。私は「これは用意周到だな」と思いました。足がつかないような、例えば盗難車か何かでお金を受け取り、待機している仲間の車で逃走する、まさに計画的犯行だと私は推測しました。

 私は急いで、パートナーのバイクに乗りました。しかし男の車はなかなか発車しません。車内の様子を見に行くと、男は助手席に座り、運転席に座っている協力者と思われる男性とお金を数えながら、「うまくいったぜ! チョロいな!」とでも話しているかのようにゲラゲラ笑い合っていました。

 愛美さんが必死に働いて稼いだ大切なお金が、こんなやつらの手に渡るのかと思うと怒りが爆発しそうでしたが、なんとか抑えて、男と協力者の顔を撮影して引き続き尾行に備えました。数分後に車が発車し、男たちはとあるアパートに入っていきました。その様子の撮影にも成功し、住所も部屋の号室まで割ることができました。