「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。(初出:2022年6月28日)

【会話をポンポン返せない】という人が知るべき1つの処方箋【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

なぜさらっと会話できないのだろう?

 内向型は急に注目されるのが苦手で、ほめられると恥ずかしくなる。成果を挙げても手柄顔をする気にはならないし、テーブルを叩きつけたり他人を怒鳴りつけたりして、大騒ぎすることもない。

 また、内向型は人に助けを求めることを恥ずかしいと感じることが多い。

 電話をかけるのも、相手の邪魔をしてしまいそうだから、好きではない。

 さらに、内向型は自分を売り込むのが苦手で、自分の利益や昇給のためには奮闘できなかったりする。注目されるのが苦手だから、1位になることを好まない。

 経営幹部や上司たちは、そんな内向型にプレッシャーをかけようとして、「どうやらコツをつかんできたな」などと遠回しな言い方をすることもあれば、「どうして君は〇〇みたいに、クライアントと世間話をしないんだ」などと、直接的な表現をすることもある。

 内向型は仕事中、頭のなかで無数のドラマを繰り広げ、くよくよと悩んでいる。

「どうして私はあの人みたいに、さらっと会話をできないんだろう?」

「なんでさっきの質問の答えをいまさら考えてるわけ? もう遅すぎるよ」

 などなど。

【処方箋】「聞く能力」を生かせばいい

 こんなふうに悶々としているなんて、やはり内向型って不利なんだ、と思ってしまうかもしれないが、これから詳しく述べるとおり、内向型ならではの利点はたくさんある。

「フォアハンドのスイングが抜群の人にはかなわない」なんて思わずに、バックハンドのスイングと敏捷性を、誰にも負けないくらい鍛えたほうがずっといい

 職場で活躍するために役立つ、内向型ならではの利点を紹介しよう。

とっさの反応が苦手でも大丈夫

 生物の進化は適者生存、つまり環境に適応できる遺伝子をもつ者が生き残る。

 どうやら内向型は、外向型とは異なる仕組みになっているらしい。

 外向型が報酬を求めて動くのに対し、内向型は危険を回避し、エネルギーを節約し、失敗を減らすための生存戦略を身につけたのだ。

 内向型はある程度時間をかけて考えたこと以外は、とっさに話せないことが多い。

 また、衝動的な行動を嫌う内向型は、自分の考えを述べる前にじっくりと考える。そのため、いざ内向型が口を開いたときは、思慮深い会話によって、相手を喜ばせることができる。自分に対して十分な注意を払い、よく考えてくれている感じがして、言葉が胸に響くのだ。

 このような特徴からして、内向型は行動する前にも十分な準備を怠らない。

 内向型がイベントに遅刻することは、まずないだろう。会場までの所要時間など、3日前には調べてある。提出物の締め切り直前になって、あわてることもない。完成までどれくらいの時間が必要かを見積もって、着々とこなしていくからだ。

話を「聞く」のがうまい

 人の話をよく聞けるのは、コミュニケーションを成功させるための大きな要素だ。内向型は観察の達人で、行間を読むことに長けている

 情報を吸収して理解し、深く考えるため、相手にとって何が重要かを理解することができる。聞き取った情報をふるいにかけて意義のあるものを見つけ、さらに、その情報を背景となる文脈に照らし合わせて見ることができる。(中略)

 しかし、観察好きな内向型は、相手が考えていることを察しすぎる傾向がある。

 そのため神経をすり減らしてしまうこともあるほどだが、ほかの人たちから見ると、内向型は不思議なほど、他人の考えやニーズがよくわかるらしい。

 仕事の契約を成立させるには、こうした能力は非常に役に立つ。

(本原稿は、ジル・チャン著『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』からの抜粋です)

【会話をポンポン返せない】という人が知るべき1つの処方箋【書籍オンライン編集部セレクション】ジル・チャン(Jill Chang)
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。過去2年間で行ったスピーチは200回以上に及ぶ。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。2018年、ガールズ・イン・テック台湾40アンダー40受賞。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。Photo: Wang Kai-Yun