「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。
「人の感情」に敏感に感染してしまう
『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』という本は、HSP(とても敏感な人)の70パーセントは内向型であると指摘している。
HSPは、気まずい雰囲気をすぐに察知して、たちまち落ち着かない気分になる。自分のせいなんじゃないか、何かやらかしてしまったのだろうか、などと思ってしまうのだ。
そうすると、居てもたってもいられず、逃げ出したくなってしまう。
もめごとが起こったとき、HSPは心理的なプレッシャーとともに生理的疲労を覚えるが、敏感な内向型の場合はとくにそうだ。
そのため、内向型の多くはもめごとを避け、エネルギーを温存しようとする。
しかし、私生活であれ職場であれ、いつも問題から逃げてばかりいると、自分自身でコントロールできることがだんだん減っていってしまう。
もめごとは、互いのコミュニケーションや理解のしかたについて、新たな方法を学ぶ絶好の機会にもなる。ピンチを無駄にせず、むしろチャンスととらえよう。
もめごとが起こったとき、試してみてほしい方法をいくつか紹介したい。
ひと息ついて、戻ってくる
内向型にとっては、もめごとが起こった瞬間がとくに耐え難く、たちまち頭が混乱してしまう。八方塞がりで、にっちもさっちもいかない気分になってしまうのだ。
そんなとき、私のおすすめは、もめごとが起こった場所からいったん離れるか、頭のなかを整理して、気持ちを落ち着けるための時間を取ること。けれども、それがすんだら、あらためて問題に向き合い、対処し、解決する必要がある。
自分から、時間をあらためて問題を再検討することを提案してもいい。
「この問題については、午後にあらためて話し合いましょう。関係部門の方々には私から連絡し、関連情報を集めておきます。のちほど、みんなで検討しましょう」
注意深く相手の話を聞いてみる
相手の話をさえぎったり、言葉を差しはさんだりしないこと。
相手の言い分に対して注意深く耳を傾け、相手が何を懸念しているのかを理解できれば、問題の原因も見えてくるはずだ。
そして、意見の一致が生まれる余地を残しておくこと──これは内向型が得意なことのひとつだ。
ただし、よく覚えておこう。相手側の気持ちに共感したり、尊重したりするのは大切だが、相手の意見に同調しなければならないわけではない。
黙るより、自分の考えを口にする
内向型のなかには、自分の気持ちや考えを表現するのが苦手な人たちがいる。プレッシャーが強いときは、なおさらだ。こんなことを言ったらどうなるだろう、と頭のなかであらゆるシナリオを考える。そうやってあれこれ考えるほど、言葉が出なくなってしまうのだ。
だが、肝心なときに自分の考えを口にしないと、せっかくのコミュニケーションの機会を逃してしまう。
引きずらない
内向型の人たちは深く考えるのが得意だ。頭に入れた情報を、長いあいだ保存しておくことができる。
だからこそ、「問題が解決したあとは、そのとき考えたことや感じたことを、いつまでも覚えておくことはない」と自分に言い聞かせる必要がある。
いい例が、私自身だ。数年前に仕事でミスをしたのだが、いまでも昨日のことのように覚えている。でも、誰かともめたことをずっと覚えていて、相手がまだ自分に対してわだかまりをもっているのではないかと思っていると、その人と話すのが怖くなってしまう。
過去のもめごとを覚えていれば、学んだ教訓を忘れずにいられる。
しかし、当時の記憶やそのときの感情をいつまでも引きずって、つらい教訓の数々を胸に刻み付けたままでいるのは、長い目で見れば、健康的とは言えない。
(本原稿は、ジル・チャン著『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』からの抜粋です)
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。過去2年間で行ったスピーチは200回以上に及ぶ。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。2018年、ガールズ・イン・テック台湾40アンダー40受賞。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。Photo: Wang Kai-Yun