壁を超えたら人生で一番幸せな20年が待っていると説く『80歳の壁』が話題になっている今、ぜひ参考にしたいのが、元会社員で『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など数々のヒット作で悲喜こもごもの人生模様を描いてきた漫画家・弘兼憲史氏の著書『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)だ。弘兼氏のさまざまな経験・知見をもとに、死ぬまで上機嫌に人生を謳歌するコツを説いている。現役世代も、いずれ訪れる70代、80代を見据えて生きることは有益だ。コロナ禍で「いつ死んでもおかしくない」という状況を目の当たりにして、どのように「今を生きる」かは、世代を問わず、誰にとっても大事な課題なのだ。人生には悩みもあれば、不満もあるが、それでも人生を楽しむには“考え方のコツ”が要る。『死ぬまで上機嫌。』には、そのヒントが満載だ。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』より一部を抜粋・編集したものです。
妻が亡くなると夫は元気がなくなるけれど……
「妻が亡くなったら、気落ちしたせいか夫の元気がなくなり、後を追うようにすぐに亡くなってしまった」。身近でこんな話を聞いたことはありませんか? 一方で、夫を早くに亡くしたおばあちゃんが、一人で長生きしているというのはよくある話です。
そういえば、プロ野球解説者の野村克也さんは、妻の沙知代さんが2017年に亡くなられて以降、めっきり衰えた姿が報じられていました。野村さんご本人も、愛妻に先立たれて心の支えを失ってしまったと、自著やインタビューで繰り返し語っていました。野村さんは、妻の沙知代さんから遅れること2年2ヵ月後の2020年2月に逝去されました。
一方、人気ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の脚本家で、2021年に95歳で亡くなられた橋田壽賀子さんは、64歳のときに当時60歳だった夫と死別しています。以来、30年以上ひとり暮らしをされていたそうです。こうした事例からしても、なんとなく配偶者が亡くなると男性は早世して、女性は長生きするような印象があります。
配偶者が亡くなると男性より女性のほうが長生きする?
実は、統計的にもこうした印象の正しさが、ある程度証明されています。社会疫学者の近藤尚己さんの調査によると、基本的には男女ともにパートナーに先立たれると、早く死亡してしまう傾向があるといいます。パートナーがいる人と比較して、パートナーと死別した人は、死別から半年後までに死亡する率が41%高いという結果が出ています。半年が経過すると死亡率は下がるものの、やはりパートナーがいる人よりも死別した人のほうが死亡率が14%高くなっています。
男女別の調査を見ると、男性の死亡率が23%高くなるのに対して、女性は4%の増加にとどまります。データ上からも、明らかに女性のほうが配偶者が亡くなった後に長生きすることがわかります。
夫は存在するだけでストレス!?
もう一つ、以前、僕が精神科医のお医者さんから聞いた興味深い話があります。先生がおっしゃるには、人が認知症になると、物忘れの症状があらわれる過程で、自分にとってつらい体験の記憶から忘れていくのだそうです。本能的にイヤな記憶は早く忘れ去ってしまい、楽しい記憶を保持し続ける傾向があるというのです。
この忘却の過程には男女差があり、男性は認知症が進行しても比較的後々まで自分の妻の名前を覚えているのに対して、女性は夫の名前を真っ先に忘れてしまうといいます。ちょっとした笑い話のようですね。
「夫が死んでも、妻は長生きする」「認知症になった妻は、夫の名前をすぐに忘れてしまう」。これらの事実から解釈できるのは、リタイアして働かずに家に居続ける夫の存在は、妻にとってそれほどありがたいものではなく、むしろストレスであるということだと僕は思うのです。男にとっては悲しい限りですが、これが現実です。
男性による一方的な思い込みとは?
夫は、妻が自分に対してどういう感情を持っているのかを冷静に想像する必要があります。そして、自分自身がストレスのもとになっているという事実を直視しなければなりません。男性の中には、長年自分が家族を養ってきたという自負からか、リタイアして何年も経っているにもかかわらず、いつまでも妻に対して横柄に振る舞っている人がいます。
「風呂沸かしてくれ」「メシちょうだい」「お茶をくれ」などと、エラそうな態度で指図する。こんな態度をとり続けていたら、妻のストレスのもとになり、愛想を尽かされるのは当たり前です。こうした横柄な態度は、妻に対する甘えでしかないのです。
「長年寄り添ってきたのだから、夫婦は強い絆で結ばれている」「夫婦は仲良く、同じ時間を共有するもの」。こうした考えは、男性による一方的な思い込みにすぎません。夫婦の認識の違いがトラブルの原因になると知っておくべきです。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。