一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、ビジネス、投資、資産形成、経済的自立のために知っておくべき教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに1万件以上の評価が集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』から、その一部を特別に公開する。

しっかり資産形成できる人が「年収」より大切にしていることPhoto: Adobe Stock

資産形成に影響するのは「貯蓄率>収入」

 まず念頭に置くべきは、シンプルだが軽視されがちな、「富を築くには収入や投資リターンはほとんど関係なく、貯蓄率が大きく影響する」という考えだ。それを物語る、簡単な例を挙げよう。

 1970年代、このままでは世界は石油不足に陥ると考えられていた。それは簡単な計算で明らかだった。世界経済は大量の石油を使いながら成長を続けていたが、掘削量はそれに追いついていなかった。

 だが幸いにも、石油は枯渇(こかつ)しなかった。ただし、それは単に石油が多く見つかったとか、採掘方法が改善されたというだけではない。

 人類が石油危機を克服した最大の理由は、自動車や工場、住宅のエネルギー効率が以前よりも良くなったからだ。

 現在の米国では、GDP1ドル当たりのエネルギー消費量が、1950年に比べて6割減少している。1989年型のフォード・トーラス〔一般的な大きさのセダン車〕の平均MPG(1ガロン当たりの走行マイル)は18.9マイルだったが、2019年型のシボレー・サバーバン〔超大型のSUV車〕の平均MPGもそれとほぼ同じの18.1マイルだ。

 世界は、エネルギーの生産量を増やすのではなく、必要なエネルギー量を減らすことで、「エネルギーの富」を増やしていった。米国の石油・ガスの生産量は1975年から65%増加したが、省エネや効率化により、同じエネルギーでできることは2倍以上になっている。どちらが大きな役割を果たしたかは一目瞭然だ。

 新たにエネルギーを生産できる場所を見つけようとするのは、地質、地理、天候、地政学など、人間がコントロールしにくい条件が複雑に絡み合っているため、不確実な要素が大きい。これに対し、エネルギーの効率を高めることは、人間がコントロールできる部分が大きい。軽重量、低燃費の車を買ったり、積極的に自転車に乗ったりすることは自分で選択できるし、確実に効率を上げられる。

自分がコントロールできる部分に目を向けよう

 お金についても同じことが言える。投資のリターンが多ければ、お金は増える。だが、いつまでうまくいくか、市場が自分にとって有利に働くかは、常にわからない。求める結果が確実に得られるわけではないのだ。

 一方、エネルギーの世界の省エネや効率化と同じように、個人がお金を貯蓄し、倹約することは「お金を増やすための方程式」において、私たちが唯一コントロールできる部分であり、将来的にも確実な効果が期待できる。

「富を築くためには、多くの収入や大きな投資リターンが必要だ」と考えると、1970年代にエネルギー危機を叫んだ論者のように悲観的になってしまうかもしれない。進むべき道は険しく、自分ではどうすることもできない。

(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)

モーガン・ハウセル

ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。