一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、ビジネス、投資、資産形成、そして人生に効く教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに1万件以上の評価が集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』の刊行を記念して、その一部を特別に公開する。

成功する人は「全勝」を目指さない! その納得の理由Photo: Adobe Stock

ビジネス・投資で毎回勝つ必要はない

 ビジネス、投資、金融の世界では、テールイベント(少数の出来事)がすべてを動かしている。その事実を受け入れれば、物事がうまくいかないことは多いし、失敗するのも当然だと理解できるようになる。

 銘柄を選ぶのがうまい人でも、正解は半分程度だ。優れたビジネスリーダーでも、製品や戦略のアイデアを成功させられるのはせいぜい半分だ。

 良い投資家は、それなりの成績を上げられる年も多いが、悪い年も少なくない。有能なビジネスパーソンも、何度も試行錯誤を繰り返した後で、ようやく自分に合った分野で適切な会社を見つけられるだろう。優秀な人たちでさえ、これほど失敗しているのだ。

アマゾンだって山ほど失敗している

 私は、これまでに数多くの投資家や起業家と接してきて、「常に良い判断をする人はいない」ということを学んだ。頭抜けて優秀だと思えた人たちでさえ、ひどいアイデアを山ほど持っていて、実際にそれを行動に移していた。

 たとえば、アマゾンだ。私たちは普通、大企業が新製品で失敗するのは当たり前だとは考えない。失敗した場合、CEOが株主に謝罪すべきだと考える人も多いだろう。だが元CEOのジェフ・ベゾスは、同社の「ファイアフォン」が悲惨な失敗に終わった後に、こう語っている。

 もしあれが大失敗だと思うなら、私たちは今、もっと大きな失敗に取り組んでいる。これは冗談ではない。そのうちのいくつかは、ファイアフォンがごく小さなつまずきに思えるようなものになるだろう。

 アマゾンにとって、ファイアフォンで大損したとしても、アマゾンウェブサービスのような数百億ドルもの収入が得られるドル箱サービスがあるので問題はない。いくつもの失敗をテールイベントが救ってくれるのだ。

(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)

モーガン・ハウセル

ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。