一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。世界43か国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに10000件以上の評価が集まっている。そして日本でも、ついに本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が発売となった。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。
金を使いすぎて破産しかけた有名歌手
シンガーソングライターのリアーナは、お金を使いすぎて破産しそうになり、お抱えのファイナンシャルアドバイザーを訴えたことがある。そのとき、ファイナンシャルアドバイザーはこう答えた。
「買い物ばかりしているとモノは増えるが金は尽きてしまう。私はそんな当たり前のことまで彼女に懇切丁寧に教えておかなければならなかったのだろうか?」
笑ってしまった人もいるだろう。だが、この問いへの答えは「イエス」だ。私たちは、「お金は使いすぎるとなくなる」と誰かに教えてもらわなければならないのだ。
金持ちになりたいなら、簡単に金を使うな
人が「億万長者になりたい」と言うとき、実際に言いたいことは「1億円使いたい」ということなのかもしれない。だがそれは、億万長者になることとは正反対だ。
投資家のビル・マンはこう書いている。
「金持ちになった気になるには、有り金を使い果たし、借金をしてでも贅沢品をふんだんに買うのが一番だ。しかし、金持ちになるには、借金をして買い物をしてはいけない。とても単純なことだ」
これは素晴らしいアドバイスだ。だが、まだ十分ではないかもしれない。裕福になるための唯一の方法は、借金をしないことはもちろん、資産を容易に取り崩さないことだ。これは、富を築くための唯一の方法であり、富の定義そのものだ。
「リッチ」と「ウェルス」は別物
私たちは「ウェルス(富)」と「リッチネス(物質的豊かさ)」の違いを明確にしなければならない。これは単なる言葉の意味の違いの問題ではない。この違いを知らないことが、数え切れないほどのお金の判断ミスにつながっているからだ。
リッチとは、現在の収入が多く、それを使って贅沢な買い物をしていることだ。10万ドルの車に乗っている人は、たいていは高収入だ。ローンで購入していたとしても、月々の支払いをするにはある程度の収入が必要になる。大きな家に住んでいる人も同じだ。リッチな人を見分けるのは難しくない。リッチな人は、わざわざ自分からお金持ちだとアピールする場合も少なくないからだ。
だが、富(ウェルス)は目に見えない。それは、使われていない収入のことだ。富とは、後で何かを買うための、まだ取られていない選択肢だ。その価値は、将来的に今よりも多くのものを買う選択肢や柔軟性、成長をもたらすことにある。
(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)
ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。