ユーロ圏各国にとって、2012年はまさに「激動」の1年であった。本稿では新年入り後の欧州債務問題の帰趨を展望するが、その前提となる昨年の展開が、危機発生以来の一連の流れにおいて、またユーロ圏各国にとって、どのような意味を持つものであったと考えられるのかから整理してみよう。

2012年の展開を振り返る

(1)アイルランド・ポルトガルは持ち直し傾向、イタリア・スペインは一旦、沈静化

かわむら・さゆり
1988年京都大学法学部卒。日本銀行勤務を経て、現職。専門は金融、財政、公共政策。これまでの執筆論文・レポート等は参照。公職は財務省国税審議会委員、厚生労働省社会保障審議会委員、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会委員ほか

 2009年に端を発する、ユーロ圏における危機的状況は、すでに3年を超えて長期化している。その間、市場の標的とされた主な国は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルの3ヵ国に始まり、2011年秋以降は、イタリア、スペインといったユーロ圏の中核国にまで及んだ。このうち前者の3ヵ国は、実際に自力での資金調達が困難となり、ユーロ圏他国やIMF(国際通貨基金)から支援融資を受ける事態にまで至った。

 アイルランドやポルトガルの経済・財政運営は、支援融資を受けた後、2012年中は持ち直し傾向をたどり、近々、自力での長期国債発行による資金調達再開も視野に入りつつある。

 他方、イタリアは2011年秋、スペインは2012年夏場に、それぞれ緊張が高まり、国債金利が急騰したものの、①自力での財政緊縮・再建路線の強化や、②ユーロ圏としての緊急支援の枠組みであるESM(欧州安定メカニズム)が2012年10月に稼働したこと、③ECB(欧州中央銀行)による異例の資金供給オペ(2011年12月・12年2月実施のLTRO<長期リファイナンシング・オペ>や、12年9月にスキーム公表のOMTT<短・中期国債買い切りオペ>)による下支え効果が相まって、その後は沈静化しつつある。