「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンaス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。

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アメリカ大統領選で、マケドニアの若者が突然お金持ちに!?

 クリミア危機やアメリカ大統領選挙のさいのロシアの動きから、フェイク・ニュースを作るのにどのような政治的動機があるのかはよくわかる。だが、経済的動機からフェイク・ニュースを作る人間が多くいることも見逃してはならない。そのことは、マケドニア(現在の北マケドニア)のヴェレスでの事例を見れば明らかである。

 ヴェレスは、人口5万5000人の小さな町である。あまり活気があるとは言えない。テレビのチャンネルは2つしかなく、美しい教会がいくつかあるくらいで目立つ建物もほとんどない。歴史上の人物としては、オスマン帝国の宰相を務めた人物が何人かいるくらいで、歴史的に有名な事件といえば、14世紀終わりのセルビア人とオスマン帝国の戦いがあるくらいだ。

 しかし、そんな小さな町、ヴェレスが、2016年のアメリカ大統領選挙では、世界のなかでも特に大きな影響力を持つことになった。失業中の10代の若者たち(1)が何人も、ハイプ・マシンでフェイク・ニュースを拡散させるだけで突然、大金持ちになった。

フェイクニュースが広がる経済的動機

 ヴェレスの若者たちは、ソーシャル・メディアのアドネットワークを通じアメリカの有権者に向けてフェイク・ニュースを拡散するためのウェブサイトを何百という単位で作り、またそのウェブサイトの宣伝をした。

 グーグルなどの企業は、インターネット利用者に向けて広告を表示し、その広告に合った「質の高い」ユーザーをどれだけ引きつけたかに応じて、ウェブサイトの制作者に報酬を支払う。

 ヴェレスの若者たちは、良いウェブサイトを作り、ソーシャル・メディアでうまくそのサイトのコンテンツを宣伝すれば、大金を稼げることを知った。自分たちの書いた記事を数多くの人が読み、シェアすればするほど、得られる報酬の額が増えていくのだ。

偽情報は、真実よりも「シェア」される

 私たちが調査で確認したのと同様、若者たちもやはり、フェイク・ニュースは真実のニュースよりも多くの読者を引きつけるのだと知った。フェイク・ニュースは真実のニュースよりも70パーセントも多くシェアされた。

 若者たちは、拡散のため、ソーシャル・メディアに偽のアカウントも作った。拡散のための有効な方法を確立してからは、フェイク・ニュースはますます多くの人たちに広まるようになった。それまでに届かなかった層の人たちにまで届くようになったのだ。

 間もなく投票に行くはずのアメリカの有権者たちの多くが、拡散されたフェイク・ニュースを読むことになった。選挙の数ヵ月前からアメリカには大量の嘘が流し込まれ、反対にヴェレスには大金が流れ込んだ。選挙を前にしたアメリカは嘘の洪水に沈み、ヴェレスの街には、BMWの新車が多数走りはじめた。

 ヴェレスの件はほんの一例にすぎない。2019年に、世界中のフェイク・ニュース関連のウェブサイトが上げた収益は2億ドルを超えた(2)。フェイク・ニュースは今や、ビッグ・ビジネスである。フェイク・ニュースの問題を解決するには(詳しくは第12章を参照)、まずその経済的効果を認識しなくてはいけないだろう。

【参考文献】
(1) Samanth Subramanian, “Inside the Macedonian Fake-News Complex,” Wired, February 15, 2017.
(2) Global Disinformation Index, The Quarter Billion Dollar Question: How Is Disinformation Gaming Ad Tech?, September 2019, https://disinformationindex.org/wp-content/uploads/2019/09/GDI_Ad-tech_Report_Screen_AW16.pdf.

(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)