「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。
ガソリン不足の情報がSNSで拡散
2017年の夏、ハリケーン・ハービーがテキサス南部を襲った。洪水によって、何万もの人が家を失い、アメリカ南部のいくつかの製油所で操業が止まった。
ガソリンが不足するというニュースがすぐにツイッターとフェイスブックで拡散された。ガソリン・スタンドでの長蛇の列と「ガソリン売り切れ」と書かれた間に合わせの看板が写った写真が添えられた投稿もあった。
パニックが起きた。地域のドライバーたちはガソリンの買いだめに走った(1)。まるで世界が間もなく終わるかのようだった。オースティン、ダラス、ヒューストン、サン・アントニオなどで多くの人々がガソリンを求めて奔走することになった。
しかし実際には……
だが、当局の発表によって、実際にはガソリン不足など起こっていなかったことがわかった。ソーシャル・メディアを通じて拡散され、それをマスメディアが取りあげたことでさらに広まったフェイク・ニュースだったわけだ。
ガソリンは不足しているどころか潤沢にあったことが後にわかっている。製油所の操業停止や、高速道路の閉鎖などは確かにあったが、それでも、ガソリンの配送がやや遅れた以上の影響はなかった。皆が普段どおりにガソリンを使っているかぎり、大災害のなかでもガソリンの流通システムには何の問題も生じず、ガソリンが足りなくなることなどないはずだった。
しかし、パニックが起こり、ソーシャル・メディアに煽られて皆が必死に買いだめしたことで(2)、本当にガソリン不足になってしまった。
同じニュースが何度も繰り返される
フェイク・ニュースの困ったところは、同じようなニュースが何度も繰り返し、同じようなパニックを引き起こすということだ。
偽の情報は本物の情報よりも速く広まり、人々の行動を誤った方向に導く。情報は偽物でも、行動は本物で、それによる影響も本物である。
このようなフェイク・ニュースは、企業、民主主義、公衆衛生などに重大な悪影響を及ぼす。フェイク・ニュースそのものは遠い昔から存在していたが、ハイプ・マシンによって、以前よりはるかに速く広まるようになり、拡散の範囲もはるかに広くなった。
本物の情報に少しの嘘が混ざっている
フェイク・ニュースの拡散には一定のパターンがあることがわかっている(そのパターンの存在は、あとで詳しく紹介する大規模調査によって明らかになった)。
フェイク・ニュースは完全な嘘とはかぎらない。本物の情報を基にして、それを少し歪め、ねじ曲げたものも多い。虚実を混ぜ合わせて、なかでも最も物議を醸しそうな、最も人の感情を動かしそうな要素を強調する。
そのソーシャル・メディア上での拡散はあまりに速いため、検証して嘘を暴こうとしても間に合わない。いったん瓶のなかから出たフェイク・ニュースは瓶のなかに戻すことができない。あとからいくら本物の情報を流したとしても、フェイク・ニュースを消し去ることはほぼ不可能である。
【参考文献】
(1) Patti Domm, “Gasoline Prices at Pump Spike on Fears of Spot Shortages, as Biggest U.S. Refinery Shuts,” CNBC, August 31, 2017.
(2) David Schechter and Marjorie Owens, “Railroad Commissioner: There's No Fuel Crisis in Texas,” WFAA, Dallas, August 31, 2017, https://www.wfaa.com/article/news/local/texas-news/railroad-commissioner-theres-no-fuel-crisis-in-texas/287-469658632.
(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)