「楽しそう」にしてたら、
自然と人は集まってくれる
カンボジアは1970年代のポルポト政権によって、多くの知識人たちが犠牲になった歴史がある。その影響で、今でも耳鼻咽喉科医の数は非常に少ない。国内では鼻の腫瘍の難しい手術ができないため、富裕層の患者たちはわざわざシンガポールやタイまで手術を受けに行くような状況だった。
「カンボジアの医師にとって、自国の患者を診られないことほど悔しいことはないですよね。自分の国の患者を、その国の医師が治す。そのためには首都にある国内トップの病院に支援に行き、現地の医師を教育するしかないと思いました」
カンボジアにおける鼻の治療で、“最後の砦”となるような医師たちを育てる。そのために大村さんは、自身が所属する東京慈恵会医科大学の耳鼻咽喉科の医師たちをはじめとして、他施設の病院の医師や看護師、医学生で技術支援を行うチームを結成。集まったのは、大村さんの姿に影響を受けて、「国際協力活動に参加したい」と希望した人たちだ。
「みんなに『ボランティアをやろう』と勧めたわけではなくて、僕が楽しそうにしていたら『自分もやってみたい』と集まって来てくれたんです」
2013年にスタートしたチームでの活動は、年々、参加メンバーを増やしている。今では、医師・看護師・高校生など30人を超えるチームになった。そのメンバーは、大村さんと思いを同じくするとともに、東南アジアの現地の医師たちから技術支援を熱望される力量を持つ医師たちだ。そんな仲間と東南アジアに行くときにワクワクする思いは、10年以上が経っても全然変わらないという。
現在、大村さんは自身が代表を務めるNPO法人「Knot Asia」で、医療と教育でアジアをつなぐ国際協力活動を行っている。より多くの地域に向けて、鼻の内視鏡手術を広めることが目的だ。
活動の成果も着実に上がっている。
「最近では東南アジアの医師たちが、『こんなことができるようになったよ』と動画を送ってくれます。彼らが自信を持って手術ができるようになったのを見ると、すごく嬉しい。自分が教えたからというよりは、彼らの努力が実ったのが純粋に嬉しいです」
ただ、自分の活動を必要以上に“美化”されることは、大村さんの本意ではない。
「よく海外協力活動をやっていると『すごいですね』と言われますが、僕は使命感でやっているわけじゃないんです。楽しいからやっているだけ。僕にとっての楽しいことであり、現地の医師たちから必要とされていること。だから続けているんです」