鼻にできた腫瘍の内視鏡手術で、「日本一」といわれる技術力を持つ医師がいる。耳鼻咽喉科医の大村和弘さん、42歳。東京慈恵会医科大学の耳鼻咽喉科に所属し、現在はアメリカのノースカロライナ大学に留学し、客員研究員をしている。
大村さんがライフワークにしているのが、東南アジアでの技術支援活動。カンボジアを中心に、現地の医師たちに鼻の手術の手技を教えている。その10年以上にわたる活動を追ったドキュメンタリー映画「Dr.Bala*」は、世界各国の映画祭で上映され、大きな反響を呼んでいる。
現地に行くのは、年に1回、それも1週間だけ。しかし、その1週間を積み重ねることによって、大村さんの生き方は大きく変わったという。人生を変えるライフワークとの出合いと、それによって拓かれたオリジナルのキャリアについて、話を聞いた。(構成/安藤 梢)
*ミャンマー語で「Bala」は力持ちの意味。
国際協力活動は、
人生を豊かにする「趣味=ライフワーク」
2022年2月、大村さんの12年にわたる東南アジアでの活動を追ったドキュメンタリー映画「Dr.Bala」が完成した。
コロナ禍で一時中断されたが、年に1回、東南アジアに1週間滞在し、現地の医師たちに鼻の手術を教えてきた。年に1回、1週間なのは、夏休みを使っているから。旅費も滞在費もすべて自費だ。大村さんにとって国際協力活動は、「自分の人生を豊かにする趣味であり、ライフワーク」なのだという。
「海外活動をしている1週間は、自分へのご褒美のようなもの。趣味のゴルフにお金をかける人がいるように、僕は東南アジアで技術支援をするために自分の時間とお金を使っているんです」
映画「Dr.Bala」には、そんな大村さんの生き生きとした表情が映し出されている。
そもそも大村さんが東南アジアでの協力活動に参加するようになったのは、“なんとなく”参加した講演会で、NPO法人ジャパンハートの吉岡秀人先生の話を聞いたことがきっかけだった。ジャパンハートは、ミャンマーを中心に医療活動をするボランティア団体で、大村さんは医師になって4年目でその活動に参加した。そこで東南アジアの医療の実情を知ったことで、「鼻の手術のプロになろう」と決意する。
「誰もが学びたいと思うような圧倒的な外科のスキルを身に付ければ、専門医が少ない東南アジアでは『その技術を教えてほしい』と求められるはず。自分が海外支援をしたいという気持ちだけでなく、現地から求められる存在にならなければ、支援活動は続けられません」
自分が直接、現地の患者の治療をする医療支援ではなく、現地の医師を育てるための新しい仕組みが必要だと考えた大村さん。その仕組み作りのために向かったのは、カンボジアだった。