どんな膜で仕切ればよいか
それでは実際に、どんな膜で仕切ったらよいかを考えてみよう。生物は水中で誕生したと考えられている。
それにはいくつか理由があるが、その1つは化学反応が起きやすいからだ。たとえば、イカを乾燥させてスルメにすると、腐りにくくなる。これは水分が減って、腐敗の化学反応が進みにくくなるからだ。したがって、体内の水分が多く、化学反応のかたまりといってもよい生物は、水中で誕生したと考えられるのである。
水中に仕切りを作るには、水に溶けないもので作るしかない。水に溶けないものといえば脂(あぶら)である(一般に液体のものを油あぶら、固体のものを脂という)。しかし、脂は水に弾かれるので、水面に押し出されてしまう。でも生物は、化学反応が起きやすい水中にいたい。では、どうするか。
疎水性(水に弾かれる性質)の脂で仕切りを作り、その両側を親水性(水になじみやすい性質)の物質でコーティングすれば、よいのではないだろうか。そうすれば、疎水性の部分が仕切りの役目を果たすが、仕切りの表面は親水性なので水中にいられる。
これにぴったりの物質が、両親媒性分子だ。両親媒性分子とは、1つの分子の中に、親水性の部分(親水基)と疎水性の部分(疎水基)を両方とも持っているものだ。実際に生体膜に使われている両親媒性分子はリン脂質といい、肢が2本のタコのような形をしている。
タコの頭が親水基で、肢が疎水基だ(基とは原子がいくつか結合したもので、分子の一部となっている)。