生き物の中にも
正体の明らかでない「悪魔」がいる?
本書『生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く』の原題は”The Demon in the Machine”である。邦題は『生物の中の悪魔』なので、だいぶ受け取る側の印象は違うと思うが、本書に出てくる「悪魔」というのは、宗教やオカルト的な意味での悪魔ではなく、「マクスウェルの悪魔」に由来する架空の存在である。
これは、1867年にスコットランドの物理学者マクスウェルが提唱した思考実験に出てくる悪魔(demon)のことで、分子の動きを観察できる極小の悪魔を想定することで、熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)に反するエントロピーの減少が可能ではないかという問いかけである。熱力学の根幹に突き付けられたこの問題は、本書の中核をなす「情報」と関連することが分かってきたが、まだ完全に解明されている訳ではない。そして、生き物の中にも、生命現象を操るこうしたいまだ正体の明らかでない「悪魔」がいるのだろうかというのが、本書のタイトルにつながっている。
本書の著者であるポール・デイヴィスは、イギリス出身の物理学者・宇宙生命学者である。科学に関心を持つ一般の読者向けに30冊以上の本を執筆しており、日本でも『タイムマシンのつくりかた』など10冊以上が翻訳されている。そうした著者が、最新科学の成果を「情報」という概念から捉えなおして、生命の秘密を解き明かそうとしたのが本書であり、これまでで最も網羅的かつ学際的に書かれたものになっている。