ノーベル賞経済学者リチャード・セイラーが「驚異的」と評する、傑出した行動科学者ケイティ・ミルクマンがそのすべての知見を注ぎ込んだ『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』(ケイティ・ミルクマン著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)。世界26ヵ国で刊行が決まっている世界的ベストセラーだ。「自分や人の行動を変えるにはどうすればいいのか?」について、人間の「行動原理」を説きながらさまざまに説いた内容で、『やり抜く力 GRIT』著者で心理学者のアンジェラ・ダックワースは、「本書を読めば、誰もが超人級の人間になれる」とまで絶賛し、序文を寄せている。本原稿では同書から、その驚くべき内容の一部を特別に紹介する。(初出:2022年10月5日)

【行動科学】一瞬で「やる気」が出るたった1つの方法【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

助言されると、自分がダメに思えてしまう?

 私たちは、誰かが変われないのはその方法を知らないからだと思い込み、彼らに欠けている知識を授けようとして助言を与える。

 だがもしその原因が、「知識がない」ことではなく、「自信がない」ことにあるのだとしたら? そして私たちの望まれない助言が、役に立つどころか逆効果を生んでいるのだとしたら?

 人はたとえ他人の行動に他意がなくても、そこに隠された意味を読み取ろうとする傾向があることを、心理学者のローレン・エスクレイス=ウィンクラーは知っていた。

 私たちは他人に助言を与えることによって、「私はあなたが自力で成功できないと思っている」というメッセージを、心ならずも送っているのかもしれない。「あなたはダメな人だ。私の2分間のアドバイスは、あなたが問題を自力で解決しようとして学んできたすべてのことよりも価値がある」とでも言わんばかりに。

 そこでローレンは考えた──台本をひっくり返したらどうなるだろう?

 もし助言されると自信が破壊されてしまうのなら、苦戦している人は助言を受ける代わりに、助言を求められるほうがよいのかもしれない

 助言を求めることは、相手に「あなたは知的で、他人を助ける能力があり、模範的な存在で、成功するタイプの人間だ」というメッセージを伝える。あなたを信じている、ということの証になる。

 そう考えると、他人のためにひとこと助言を書くことによって、自分自身の目標を達成する自信が得られるのではないだろうか。

むしろ、自分が人に「助言を与える」とどうなる?

 博士課程で心理学を学んでいたローレンは、達成できていない目標があるアメリカ人を対象に、次々と研究を行った。貯蓄を増やしたい、怒りを抑えたい、体を鍛えたい、仕事を探したい、などと思いながらなかなか達成できずにいる人たちだ。

 そしてローレンは実験をするたび、2つの発見をした。

 まず、ほとんどの人は直接聞かれると、「助言を受ける」ことのほうが「助言を与える」ことよりやる気が出るはずだと予測した。だからこそ、私たちは望まない助言を受けることがこれほど多いのだ。

 しかし、対照実験によってこの考えの正確性を調べると、それが誤っていることが明らかになった。目標を追求する人たちは人に助言を与えると、同じような助言を受けたときよりもやる気が高まったと感じた。

 もちろん、やる気だけでは行動変容には遠くおよばない。ローレンのアイデアは、実際の目標達成には役立たない可能性もあった。だが規模を拡大して実験を行う価値は十分あるように思われた。

「人に助言する」のは楽しく、成績も上がる

 2018年の冬、ローレンとアンジェラ・ダックワース、ディーナ・グロメイ、私は、学業目標を達成しようとする生徒を助けるための大規模な実験を行った。新学期開始直後の実験当日、フロリダ州全域の7つの高校の生徒約2000人が、教師と一緒にコンピュータ室に入った。

 一部の生徒は、パソコンで短いアンケートに答えた。

 だが残りの生徒は、一風変わったことを行った。彼らは、生徒なら誰でもそうだが、これまで学校で助言を受け続けてきた。「授業に集中しなさい」「テストの前に問題を解く練習をしなさい」「宿題は期限までに提出しなさい」等々。だが今日は違う。彼らは助言を与えるよう求められたのだ。

 これらの幸運な生徒は、10分間のオンラインアンケートで下級生への助言を求められた。たとえば、「先延ばしを防ぐためにどんなことをしていますか?」「集中して勉強したいときはどこへ行きますか?」「成績を上げたい人に一般的なアドバイスはありますか?」といった質問をされた。

 アンケートに答え終わると、生徒はそのままいつものように残りの学期を過ごした。

 実験の対象期間が終わると、私たちは生徒自身が最も重要だと答えた科目の成績と、数学(アンジェラによれば、生徒にとっては数学の宿題をするくらいならブロッコリーを食べるほうがましだという!)の成績を収集した。

 そして驚くなかれ、私たちの戦略はうまくいった。たった数分間の助言を行った生徒は、残りの生徒に比べてこれらの科目の成績が上がったのだ。

 誤解がないように言っておくと、誰かに助言を与えることには、平凡な生徒を学年総代に押し上げるほどの効果はない。だがそれでも、あらゆる状況に置かれた高校生の成績を上げる効果があった。優等生であれ、劣等生であれ、貧困家庭の生徒や富裕家庭の生徒であれ、どんな生徒も仲間に助言を与えることで、成績がわずかに上がったのだ。

 ちなみに、生徒は助言を与えることを喜んでいるようでもあった。実験に協力してくれた高校生たちは、これまで意見を求められたことはないからとても楽しかったと、教師に伝えた。「今度いつできますか?」と期待を込めて催促した生徒もいた。

(本原稿は『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』からの抜粋です)