唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント10万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、著者が書き下ろした原稿を特別にお届けする。
胃に穴が空く病気?
強いストレスや精神的な疲労が強い時に、「胃に穴が空きそうな」という表現を使うことがある。
現実に、「胃に穴が空く」ことはあるのだろうか? 実を言うと、「胃に穴が空く病気」は実在する。
その病名を「胃穿孔」という。「穿孔」とは、その名の通り「孔(あな)」を「穿つ(うがつ)」という意味だ。
「胃潰瘍」は、誰もがよく知る病名だろう。
胃の表面の粘膜が炎症を起こし、深くえぐれた状態になることだ。
胃に穴が空くとどうなる?
潰瘍が悪化すると、この「えぐれ」がますます深くなり、そのうち壁を貫通してしまう。この状態が「穿孔(せんこう)」である。
他にも、胃がんが悪化して胃の壁を貫通し、穴が空いてしまうケースもある。
胃に穴が空くとどうなるだろうか?
想像すると分かる通り、胃の内容物がお腹の中の空間に広がってしまう。
お腹の中、すなわち「腹腔内」は本来、無菌状態の空間だ。ここに細菌が侵入すると、重篤な腹膜炎を起こし、命に危険が及んでしまう。
小さな穴でも激痛
目を凝らさないと分からないほどの小さな穴であっても、わずかな内容物の漏れが腹膜炎に繋がり、お腹の激痛を引き起こすのだ。
十二指腸にも潰瘍ができることがあり、これを「十二指腸潰瘍」という。
同様に、悪化すると穴が空くことがある。「十二指腸穿孔」と呼ばれる状態だ。同じく、重篤な腹膜炎を起こし、適切に治療されないと生命に関わる病気である。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍は、合わせて「消化性潰瘍」と呼ばれる。
「ストレス以外」の主な原因
ただし、ここからが重要だ。
胃や十二指腸の潰瘍や穿孔の主な原因は、必ずしも「胃に穴が空きそうな」状態、つまり「精神的なストレス」ではないのだ。
消化性潰瘍の二大リスクといえば、ピロリ菌と痛み止めである。
ピロリ菌に感染していると、胃の粘膜に慢性的な炎症が起き、潰瘍が発生しやすい状態になる。
ピロリ菌は胃がん発生の最大のリスク因子でもある。必要に応じてピロリ菌の有無を調べ、病院で「除菌」を行うのが一般的だ。
また、ロキソニンやイブプロフェン、ボルタレンなどに代表される痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)を過度に使用すると、粘膜を保護する成分が作られにくくなる。
これが、「痛み止めが胃を荒らす」理由である。痛み止めを長期間飲む場合は、必ず医師に相談が必要だ。
一方、同じ「痛み止め」でも、カロナールやアンヒバに代表される「アセトアミノフェン」は、全く異なる性質の薬である。
これらには消化性潰瘍の心配はないため、混同しないよう注意が必要だ。
これらの知識については、『すばらしい人体』で詳しい解説を行っているため、ぜひ参照していただきたいと思う。
(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)