「どうしてもほかの人の意見が気になって、自分軸で考えられない」という人は少なくない。「自分なりの妄想」を手なづけ、圧倒的な結果を出している人たちは、いったいどんなふうに考えているのだろうか──。そのための具体的手法を解説した戦略デザイナー・佐宗邦威さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』より、一部を抜粋してお届けする。

「箇条書きメモをする人」がハマる落とし穴とは?Photo: Adobe Stock

「箇条書き」は思考を固定してしまう

 僕が立ち上げたBIOTOPEは、僕の古巣(P&G)である消費財業界と仕事をすることも多い。ただし、かつてはブランドマネジャーとして既存ブランドをどう伸ばすかを考える立場だったが、戦略デザインファームとしてはむしろ、いまのカテゴリーに収まりきらない「新しいブランド」を考えることを求められる。今回はそういうときに、どのようなアプローチを取るのかをご紹介したい。

 たとえば、新しい「清涼飲料水のブランド」を考えるとしよう。かつてのアプローチであれば、定量データや定性データを見ながら、まだ満たされてない消費者ニーズを探すことからはじめる。

 しかし、このやり方は非常に効率が悪い。世の中のニーズは、定量データから導き出せるときにはすでに誰にでも見えており、競合が先に実現してしまう可能性も高い。また、インタビューのような定性調査には時間がかかるし、むやみやたらに聞いてもいいヒントを得られる保証はない。

 そんなとき、まず僕たちが気をつけているのが「分解」のプロセスにより多くの時間を割くということである。何か新しいことを生み出そうというとき、僕たちはつい新たなアイデアづくり=「再構築」のことばかりを考えがちだ。しかし、より価値の高いイノベーションを集団で生み出すには、既存のアイデアに隠れている「あたりまえ」をしっかりと洗い出して、パーツ分けするほうがいい。

 たとえば、ペットボトル型清涼飲料水には「150円前後」とか「自動販売機やコンビニで買うもの」といった「あたりまえ」が付着している。これらがしっかりと意識化されていることで、「500円のペットボトルがあるとしたら?」とか「自宅に直接送られてくる清涼飲料水があったら?」という具合に思考が広がるようになる。つまり、「常識」をリストアップしておくことで、従来の「あたりまえ」を壊すための余地が見えてくるのである。すべての「常識」を網羅的にリストアップする必要はないが、そこで出た視点をつなぎ直すと、これまでになかった切り口のアイデアは出しやすくなる。

 課題なり発想なりを要素に切り分けるというのは、MBAコースの戦略思考などでも教えられている思考法だ。有名なのは、マッキンゼーのMECE(モレなくダブりなく)だろう。ただし、僕たちが取るのは「あたりまえを覆す」ための3ステップの分解メソッドである。これは、1980年代にシカゴのDoblinというイノベーションファームが提唱した古典的メソッドを下敷きにしたものだ。

 ①「あたりまえ」を洗い出す
 ②「あたりまえ」の違和感を探る
 ③「あたりまえ」の逆を考えてみる

 最初のステップでは、まず特定のテーマについて、世の中であたりまえとされる「常識」を思いつくかぎり羅列していく。伝統的なルールや慣習のようなものでもいいし、近年出てきた「流行」などもいいだろう。これは多ければ多いほどいいので、ウェブのキーワード検索を使ったり、可能であれば複数人でブレストをしたりして、ラフに発想していくのがいい。

 組替を前提とした分解を行うとき、全体を通じて言えるのが、情報は必ず「物理的にアウトプットする」べきだということである。端的に言えば、手を動かして「書く」ということだ。どんなに優秀な頭脳を持っていても、頭のなかだけで組替を行える人はまずいない。「あたりまえ」を洗い出すときにも、自分の外に「書き出す」のは大前提だ。

 そのうえで重要なのが、「組替が可能なかたちで」書き出すということだ。

 アイデア出しをしようとするとき、紙に箇条書きやフローチャートを書きはじめる人は多いだろう。アイデアの組替という観点からすると、こうした手書きには致命的な欠点がある。書き出した要素の「順序」が固定されてしまい、「新結合」が起こりづらくなるということである。

 要するに、箇条書き形式のよくあるメモには、組替のための「余白」がないのだ。特定テーマに関して「あたりまえ」をアウトプットしていく際には、そのような組替を前提としたメディアなりキャンバスなりをしっかり用意する必要がある。

「箇条書きメモをする人」がハマる落とし穴とは?直感と論理をつなぐ思考法』では、こうした箇条書きメモの限界を超えるための手法「可動式メモ術」など、さまざまなメソッドが解説されている。