2022年は残念なことに著名人の自死が何件か報道された。大きな驚きやショックを受けた人も多いだろう。日本の自殺者は年間2万人を超える。そこで重要となるのが、「ポストベンション」(事後対応)と言われる、不幸にして自殺が起きた場合の、「遺された人へのケア」である。(エムステージ 歌代 敦)
職場で自殺者が出たらどうするか
自殺は、それによって遺された人にも大きな精神的ショックを与える。心の傷は、深刻な場合はうつなどの心の病につながり、「後追い自殺」「連鎖自殺」といわれるように、ある人の自殺が他の自殺を引き起こしてしまうことさえある。特に身近な関係であった人や、親近感を持っていた人、もともとメンタルへルスに問題を抱えて「死にたい」と思っていたような人は、強く影響を受けてしまう。
そこで重要となるのが、「ポストベンション」(事後対応)と言われる、不幸にして自殺が起きた場合の、「遺された人へのケア」である。自殺予防は、事前に自殺を予防すること、今まさに起きようとしている自殺に介入することはもちろん、遺された人へのケアも重要な取り組みなのだ。
もしも、職場で自殺者が出た場合、周囲への影響にどのように対処し、遺された人の心のケアを行うべきだろうか。
自殺が起きたとき、周囲の人は大きな衝撃とともにさまざまな感情を抱くだろう。
「あの人が亡くなってしまうなんて信じられない(驚愕)」
「どうして何も相談してくれなかったのか(怒り)」
「自分の対応が間違っていたのではないか(自責)」
「上司のせいだ(他罰)」
「あの人が耐えられなかった環境に、私は耐えられるだろうか(不安)」
遺された人は、「なぜ、こんなことが起きてしまったのだろう」と考えることで、自分なりに納得したり気持ちを整理しようとしたりする。それは遺された人の心の反応として自然なものだ。しかし、それが過度だと、強い自責や他責観、後悔、落ち込みにつながっていく。
そして心の中の複雑な感情を誰かに相談したいと思っても、あまりにもセンシティブな出来事のため、気軽に話すこともできない。タブー視して心に抱え込んでしまうことは、孤立感や孤独感を高めかねない。抱え込んだ複雑な気持ちは、メンタルへルスに大きな影響を与えてしまう。
ポストベンションの目的は、大きく二つある。一つは、こうした大きなショックを受けた精神状態から、時間はかかっても徐々に回復していく人間の正常な反応と心の立ち直りのプロセスを支援すること。もう一つは、その中から重症化し今すぐに精神的・医療的なサポートが必要な状態の人を見つけて、医療につなぐことだ。