樹木たち同士のコミュニケーションを成立させる「地中の菌類ネットワーク」を解明した新刊マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険──。日本では養老孟司氏、隈研吾氏、斎藤幸平氏らが絶賛のコメントを寄せ、アメリカでは早くも映画化が決定しているという。同書の訳者である三木直子さんに、この本の魅力を語ってもらった(聞き手/藤田 悠 構成/高関 進)。

「女性に受け入れられやすい作品」なのでは?

──三木さんはこれまで『ミクロの森』(D. G. ハスケル著)、『コケの自然誌』『植物と叡智の守り人』(いずれもロビン・ウォール・キマラー著)など、植物関連の訳書をたくさん手がけられていますよね。それらと比べて、本書ならではという特徴は何かありましたか?

三木直子(以下、三木):著者自身の人生と重ねながらいろいろな発見が語られていくところですね。彼女の山あり谷ありのライフイベントと、研究のなかで得た自然からの学びを重ねているのが特徴です。

ですから本書は、とくに女性に共感されやすいんじゃないかと思っています。もちろん男性が読んでも、頭で「なるほど、こういうことがあるのか」と理解できるかもしれませんが、女性はもっと切実な実体験として受け止められる描写がたくさんあります。

男性社会で仕事をして認められることの難しさや、子育てと仕事を両立させる難しさ、また著者のスザンヌが患った乳がんは女性に多い病気ですし、やっぱり女性のほうにより刺さるのではないでしょうか。

──三木さんのなかでとくに印象に残っているシーンや箇所はありますか?

三木:そうですね……本書は英語のオリジナル版が刊行された直後に、映画化が決定しているわけですけど、「映画化されたときにいちばんドラマチックなシーンになるのはどこだろう?」と考えると、やっぱり後半ですね。

とくに、仕事の成功の陰で、離婚、がんとの闘病と克服など、私生活がピンチになっていくところでしょうか。大きな研究成果を残した女性が、その後どうやって自分の人生と向き合ったのかということに興味が湧きました。

『メッセージ』の主演女優らが
著者・スザンヌの人生を演じる

──若き著者が学会発表の場で学界の権威たちから意地悪されるシーンなんかも、映画でどんなふうに描かれるのか楽しみですよね。

三木:私も学会発表のシーンは、女性としてグッとくる場面でした。

彼女が一大発見をしたのが30年くらい前の90年代ですから、まだ30代半ばと若いわけです。当時はいまよりもさらに女性が軽視されていたと思いますから、その苦労たるや並大抵のものではなかったでしょうね。

私も若い頃、外資系の広告代理店に勤めていて、テレビCMなどのプロデューサーをしていたのですが、海外でCMの撮影を終えて日本で編集して仕上げるときなどに、男性ディレクターから「若い女のくせに生意気だ」というような高飛車な態度を取られることがよくありました。

そういう思い出とオーバーラップする部分がたくさんありましたね。

──『マザーツリー』映画版も待ち遠しいですね。

三木:そうですね。エイミー・アダムスとジェイク・ギレンホールが映画化の権利を取得し、共同プロデュースすると発表されているだけで詳しい情報はまだわからないですが、日本でも公開されるといいですね。

本書に推薦文を寄せてもいる女優のエイミー・アダムス(『メッセージ』『ダウト あるカトリック学校で』『ザ・ファイター』『ビッグ・アイズ』などに出演)が著者のスザンヌを演じるみたいです。

大金をかけたハリウッド映画で主役をバンバン張るというタイプの女優さんではなく、アート系の作品にも多く出ている相当な実力派ですから、きっと話題になるのではないでしょうか。すごく楽しみです。

個人的には、ぜひケリー(スザンヌの弟)役をジェイク・ギレンホール(『ブロークバック・マウンテン』『プリズナーズ』『ミッション:8ミニッツ』などに出演)に演じてほしいですね。私、ファンなので(笑)。

(次回に続く)

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◎映画『アバター』原案にもなったカナダの森林学者による「世紀の大発見」とは?